黒い寓話 [フィクション]
ひでえことしやがる・・・。
谷間の村に立ち寄った俺は、その惨状に目を覆った。
そこにあるのは、老若男女、死体の山だった。
身体のツヤが失せている。死後相当時間が経っているようだ。
苦悶の表情を浮かべて横たわる死体たちを簡単に検分したが、
目立った外傷はない。
きっと、毒ガスだ。
この世界には、毒ガスをはじめ、罠、毒など、
俺たちを根絶やしにするため、
あらゆる暴力装置が用意されていた。
何のために?
わからない。ただそこにあるのは、
俺たちの生存そのものを否定しようとする、
邪悪にして強大な意思だった。
俺たちは、なす術もなく、強大な意思に抵抗し続けてきた。
ただ、種として生き続けることで。
いつまで続くかわからない、絶望的な抵抗だ。
やれやれ。
そっと十字を切って、谷間の村を後にしようとした。
すると、
突風。
飛びのいた俺が0.5秒前にいた地点には、
明確な殺意を持って、何か巨大なものが振り下ろされていた。
あんなの食らったら、死んじまう・・・。
その後は、息つく暇もない。
俺はただただ走り続けた。
少しでも狙いが逸れるよう、ジグザグに、ときには
後戻りをしながら。だが近くに身を隠せそうな場所はない。
もう、ダメか?
ふと振り向けば、巨大な塊が迫ってくる。
俺は立ち止まって背中に全神経を集中し、
前へ踏み切った。
やった!!!
浮いた!!!
地面が見る見る遠ざかる。
空って、こんなに広かったのか・・・
俺はつかの間の勝利に酔いしれ、力強く羽ばたきながら、
自分の身体に何か霧のようなものがまとわりつくのも
気にならなくなっていた。
苦しい。
やられた。毒ガスだ。身体が痺れてきた。
もうだめだ。
胸いっぱいに毒ガスを吸い込んだ俺はただ、
地面への墜落を待つばかりだった。
何か声のようなものが聞こえるが、わからない。
「びっくりした。まさか飛ぶなんて。
やっぱりゴ○ジェットもあってよかったわ」
谷間の村に立ち寄った俺は、その惨状に目を覆った。
そこにあるのは、老若男女、死体の山だった。
身体のツヤが失せている。死後相当時間が経っているようだ。
苦悶の表情を浮かべて横たわる死体たちを簡単に検分したが、
目立った外傷はない。
きっと、毒ガスだ。
この世界には、毒ガスをはじめ、罠、毒など、
俺たちを根絶やしにするため、
あらゆる暴力装置が用意されていた。
何のために?
わからない。ただそこにあるのは、
俺たちの生存そのものを否定しようとする、
邪悪にして強大な意思だった。
俺たちは、なす術もなく、強大な意思に抵抗し続けてきた。
ただ、種として生き続けることで。
いつまで続くかわからない、絶望的な抵抗だ。
やれやれ。
そっと十字を切って、谷間の村を後にしようとした。
すると、
突風。
飛びのいた俺が0.5秒前にいた地点には、
明確な殺意を持って、何か巨大なものが振り下ろされていた。
あんなの食らったら、死んじまう・・・。
その後は、息つく暇もない。
俺はただただ走り続けた。
少しでも狙いが逸れるよう、ジグザグに、ときには
後戻りをしながら。だが近くに身を隠せそうな場所はない。
もう、ダメか?
ふと振り向けば、巨大な塊が迫ってくる。
俺は立ち止まって背中に全神経を集中し、
前へ踏み切った。
やった!!!
浮いた!!!
地面が見る見る遠ざかる。
空って、こんなに広かったのか・・・
俺はつかの間の勝利に酔いしれ、力強く羽ばたきながら、
自分の身体に何か霧のようなものがまとわりつくのも
気にならなくなっていた。
苦しい。
やられた。毒ガスだ。身体が痺れてきた。
もうだめだ。
胸いっぱいに毒ガスを吸い込んだ俺はただ、
地面への墜落を待つばかりだった。
何か声のようなものが聞こえるが、わからない。
「びっくりした。まさか飛ぶなんて。
やっぱりゴ○ジェットもあってよかったわ」
【フィクション】我が闘争 [フィクション]
私は、日夜闘っている。
差別され続けている者のために。
生存権が奪われている者のために。
日々虐殺されている者のために。
いったい、「彼ら」がなにをしたというのか?
社会の底辺で、ひっそりと暮らしているだけではないか。
「彼ら」は何も奪わない。
「彼ら」は誰も傷つけない。
「彼ら」は誰もだまさない。
こんな無害な者たちを、
我々は嫌悪し、差別し、そしてあまつさえ、
虐殺すらしてきたのだ。
「彼ら」を虐殺するために、
実に多くの武器が考案され、開発されてきた。
我々は、中世の魔女狩り裁判の際に使用された、
各種の拷問器具を見て、身の毛もよだつ思いをする。
それなのに、
「彼ら」をジェノサイドするための武器が、
いとも簡単に手に入る現状には、
誰もが目をふさいでいるままなのだ。
政治も企業もマスコミもみんな、おかしい。
被差別階級を作ることで、
支配階級への批判を抑えられると思っているのか?
「彼ら」を虐殺したところで、
格差社会の歪みはなくならないぞ!
死の商人どもめらが!
儲かりさえすればそれでいいのか?
一部の者を一方的に虐げてみたところで、
不祥事への批判はなくならないのだぞ?
真実を伝えるのが貴様らの役目じゃないのか?
権力や資本に虐げられ虐殺されている者がいるという、
この現状に頬被りして、
軽佻浮薄な特集をねつ造してまで作り上げるのが、
ジャーナリズムだというつもりか?
環境保護団体も、まるであてにならない。
奴らは、金持ちからの寄付が得られそうな、
一般受けしそうな話しか取り上げない。
また、人種差別的偏見に充ち満ちている。
とんだ俗物どもめらが!
とはいえ私は、何度でも抵抗の叫びを上げる。
たとえ一人になっても。
しかし私は、人間の理性を信じている。
私の正しさは、
いつか、歴史が証明してくれるはずだ。
こら、何をする、お前らも虐殺者の手先なのか?
目を覚ませ!
人間らしい心を持っているなら!!
うわっ!!!
僕は、とある化学メーカーに勤務している。
束の間の休憩時間、オフィスの喫煙室。
先輩と二人、だらだらしている夕方。
窓の下を見ると、変な幟を持った人が一人、
入り口付近で警備員ともみ合いになっているのが見えた。
「何でしょうね、あの人・・・」
「うちの会社を、目の敵にしてるらしいぜ」
「何でまた?」
先輩は、煙草の火をもみ消しつつ、吐き捨てるように、
「キ○ガイだよ。単なる」
「どうしてですか?」
「見えるか?あの幟。少し、見えにくいけど・・・」
僕は目をこらしてもう一度彼の方を見た。
彼の掲げた幟には、大きく、こう書いてあった。
『ゴキブリ虐殺反対!殺虫剤を作るな!!』
差別され続けている者のために。
生存権が奪われている者のために。
日々虐殺されている者のために。
いったい、「彼ら」がなにをしたというのか?
社会の底辺で、ひっそりと暮らしているだけではないか。
「彼ら」は何も奪わない。
「彼ら」は誰も傷つけない。
「彼ら」は誰もだまさない。
こんな無害な者たちを、
我々は嫌悪し、差別し、そしてあまつさえ、
虐殺すらしてきたのだ。
「彼ら」を虐殺するために、
実に多くの武器が考案され、開発されてきた。
我々は、中世の魔女狩り裁判の際に使用された、
各種の拷問器具を見て、身の毛もよだつ思いをする。
それなのに、
「彼ら」をジェノサイドするための武器が、
いとも簡単に手に入る現状には、
誰もが目をふさいでいるままなのだ。
政治も企業もマスコミもみんな、おかしい。
被差別階級を作ることで、
支配階級への批判を抑えられると思っているのか?
「彼ら」を虐殺したところで、
格差社会の歪みはなくならないぞ!
死の商人どもめらが!
儲かりさえすればそれでいいのか?
一部の者を一方的に虐げてみたところで、
不祥事への批判はなくならないのだぞ?
真実を伝えるのが貴様らの役目じゃないのか?
権力や資本に虐げられ虐殺されている者がいるという、
この現状に頬被りして、
軽佻浮薄な特集をねつ造してまで作り上げるのが、
ジャーナリズムだというつもりか?
環境保護団体も、まるであてにならない。
奴らは、金持ちからの寄付が得られそうな、
一般受けしそうな話しか取り上げない。
また、人種差別的偏見に充ち満ちている。
とんだ俗物どもめらが!
とはいえ私は、何度でも抵抗の叫びを上げる。
たとえ一人になっても。
しかし私は、人間の理性を信じている。
私の正しさは、
いつか、歴史が証明してくれるはずだ。
こら、何をする、お前らも虐殺者の手先なのか?
目を覚ませ!
人間らしい心を持っているなら!!
うわっ!!!
僕は、とある化学メーカーに勤務している。
束の間の休憩時間、オフィスの喫煙室。
先輩と二人、だらだらしている夕方。
窓の下を見ると、変な幟を持った人が一人、
入り口付近で警備員ともみ合いになっているのが見えた。
「何でしょうね、あの人・・・」
「うちの会社を、目の敵にしてるらしいぜ」
「何でまた?」
先輩は、煙草の火をもみ消しつつ、吐き捨てるように、
「キ○ガイだよ。単なる」
「どうしてですか?」
「見えるか?あの幟。少し、見えにくいけど・・・」
僕は目をこらしてもう一度彼の方を見た。
彼の掲げた幟には、大きく、こう書いてあった。
『ゴキブリ虐殺反対!殺虫剤を作るな!!』
【フィクション】犬のお散歩 [フィクション]
僕の名前はコロ。ここのお家で飼われている犬だよ。
いつもは、「おばあちゃん」が散歩に連れていってくれるんだけど、
ここしばらく、お散歩は無しで、ちょっぴり退屈・・・
そんなある日、「お父さん」が散歩に連れ出してくれた!
僕は嬉しくて、ついつい走り出しそうとしたら、
リードを引っ張られて止められちゃった。
うっかり!
それから、「お父さん」や「お母さん」が、
毎日散歩に連れていってくれるようになったんだ。
「おばあちゃん」の姿をしばらく見ないのが、少し残念。
あんなに可愛がってくれるのに。どうしたのかな。
でも、僕はお散歩が大好きだから、
「コロ、行くよ」
なんて言われると、もう身体がうずうずしちゃう。
お散歩から帰ると、お腹はペコペコさ。
「おばあちゃん」がいないときは、「お母さん」か「お父さん」が、
ご飯をくれるんだよ。
いつもはコリコリしたドッグフードなんだけど、
最近は結構贅沢で、なんと、毎日骨付き肉!
骨は少し固いけれど、僕の歯ならへっちゃら。
バリバリ食べちゃうモンね。
でも、お腹いっぱいになったら、思うんだ。
それにしても、「おばあちゃん」どこにいったのかなあ・・・
また帰ってきて、一緒にお散歩いってくれないかなあ・・・
ってね。
家の中を見ると、「お父さん」と「お母さん」が何か話している。
僕はまんぷくになって、眠く、なってきた・・ぞ・・・
ふわぁぁぁぁぁ・・・・
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
部屋の中、還暦を過ぎたと思しき男女の会話。
「・・・今更かもしれないけど、」
「なんだ?」
「あなたの親孝行ぶり、本当に、尊敬するわ。。。」
「それ以上言うな。。。」
男は頭を抱えうずくまりながらうめく。
「葬式を上げる金なんて、どこにあるんだ?俺だって、、、」
「そりゃそうだけど、よりによってさぁ・・・」
「ああするのがベストだっていうのは、お前のアイデアじゃないか」
女は、どこか虚空を見るともなく見てつぶやく。
「まあね、『おばあちゃん』も本望でしょ」
「そうだな。あんなに可愛がっていた、コロと一緒に、
生きられるんだからな、たぶん。そうそう、」
「何?」
「後は、刃物の処分だ。そっちはお前に任せるぞ」
「・・・ええ、分かったわ。ところで、」
「ん、なんだ?」
「この分だと明日には、『おばあちゃん』も、完全に
無くなってしまうでしょうね・・・」
「ああ、よく平らげたものだ。コロも、な・・・」
リビングルームには、地の底に沈んでいくかのような、
乾いた男女の声。
いつもは、「おばあちゃん」が散歩に連れていってくれるんだけど、
ここしばらく、お散歩は無しで、ちょっぴり退屈・・・
そんなある日、「お父さん」が散歩に連れ出してくれた!
僕は嬉しくて、ついつい走り出しそうとしたら、
リードを引っ張られて止められちゃった。
うっかり!
それから、「お父さん」や「お母さん」が、
毎日散歩に連れていってくれるようになったんだ。
「おばあちゃん」の姿をしばらく見ないのが、少し残念。
あんなに可愛がってくれるのに。どうしたのかな。
でも、僕はお散歩が大好きだから、
「コロ、行くよ」
なんて言われると、もう身体がうずうずしちゃう。
お散歩から帰ると、お腹はペコペコさ。
「おばあちゃん」がいないときは、「お母さん」か「お父さん」が、
ご飯をくれるんだよ。
いつもはコリコリしたドッグフードなんだけど、
最近は結構贅沢で、なんと、毎日骨付き肉!
骨は少し固いけれど、僕の歯ならへっちゃら。
バリバリ食べちゃうモンね。
でも、お腹いっぱいになったら、思うんだ。
それにしても、「おばあちゃん」どこにいったのかなあ・・・
また帰ってきて、一緒にお散歩いってくれないかなあ・・・
ってね。
家の中を見ると、「お父さん」と「お母さん」が何か話している。
僕はまんぷくになって、眠く、なってきた・・ぞ・・・
ふわぁぁぁぁぁ・・・・
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
部屋の中、還暦を過ぎたと思しき男女の会話。
「・・・今更かもしれないけど、」
「なんだ?」
「あなたの親孝行ぶり、本当に、尊敬するわ。。。」
「それ以上言うな。。。」
男は頭を抱えうずくまりながらうめく。
「葬式を上げる金なんて、どこにあるんだ?俺だって、、、」
「そりゃそうだけど、よりによってさぁ・・・」
「ああするのがベストだっていうのは、お前のアイデアじゃないか」
女は、どこか虚空を見るともなく見てつぶやく。
「まあね、『おばあちゃん』も本望でしょ」
「そうだな。あんなに可愛がっていた、コロと一緒に、
生きられるんだからな、たぶん。そうそう、」
「何?」
「後は、刃物の処分だ。そっちはお前に任せるぞ」
「・・・ええ、分かったわ。ところで、」
「ん、なんだ?」
「この分だと明日には、『おばあちゃん』も、完全に
無くなってしまうでしょうね・・・」
「ああ、よく平らげたものだ。コロも、な・・・」
リビングルームには、地の底に沈んでいくかのような、
乾いた男女の声。
【フィクション】崩壊の予兆 [フィクション]
現場は憂いていた。
最近の本部は、おかしい。
まず、業務の量が等比級数的に増えた。
明らかに不要と考えられる業務も、消化を余儀なくされた。
また本部の指示は不規則で、しばしば急な業務に苛まれた。
また、業務の中身も変わった。
処理が困難なものや、危険を伴う業務が増えたのだ。
特に、劇物の取り扱いには悩まされた。
さらに、過誤に基づく本部の指示さえあった。
業務がないにもかかわらず、作業の指示がくるのだ。
本当に、休む間もない。
それでも現場は粛々と業務の処理にいそしんだ。
ただ、現場の能力にも限界がある。
業務が滞ったり、事故が頻発したりした。
かような現場の状況は、確実に、
組織全体の機能を低下させた。
現場は散発的に本部に陳情を行い、
陳情は徐々に激しさを増していったのだが、
本部の指示が改まることは、なかった。
本部は、おかしい。
現場には少しずつ絶望の気配が漂い始めた。
作業をサボタージュする者も出て、
その徒党は日々増加し、無視できない規模となっていった。
もうこの組織も、長くないかもしれない……
ある日男は、医師の診断を受けた。
男は有能だった。
昇進するたびに付き合いも増え、酒量は増した。
また飲んだ後、深夜に食べるラーメンは、男の大好物だった。
仕事の責任は重く、ストレスを感じることもしばしば。
そのためか、最近、胃が痛くなることがあった。
胃だけでなく、実は体調全般もよくなかった。
男はそれを、自分の年齢のせいだと思っていた。
周囲のすすめもあり、
男は3ヶ月かけてスケジュールを調整し、
ようやく、医師の診断を受けることにしたのだ。
診断結果は、
末期の胃ガンだった。
最近の本部は、おかしい。
まず、業務の量が等比級数的に増えた。
明らかに不要と考えられる業務も、消化を余儀なくされた。
また本部の指示は不規則で、しばしば急な業務に苛まれた。
また、業務の中身も変わった。
処理が困難なものや、危険を伴う業務が増えたのだ。
特に、劇物の取り扱いには悩まされた。
さらに、過誤に基づく本部の指示さえあった。
業務がないにもかかわらず、作業の指示がくるのだ。
本当に、休む間もない。
それでも現場は粛々と業務の処理にいそしんだ。
ただ、現場の能力にも限界がある。
業務が滞ったり、事故が頻発したりした。
かような現場の状況は、確実に、
組織全体の機能を低下させた。
現場は散発的に本部に陳情を行い、
陳情は徐々に激しさを増していったのだが、
本部の指示が改まることは、なかった。
本部は、おかしい。
現場には少しずつ絶望の気配が漂い始めた。
作業をサボタージュする者も出て、
その徒党は日々増加し、無視できない規模となっていった。
もうこの組織も、長くないかもしれない……
ある日男は、医師の診断を受けた。
男は有能だった。
昇進するたびに付き合いも増え、酒量は増した。
また飲んだ後、深夜に食べるラーメンは、男の大好物だった。
仕事の責任は重く、ストレスを感じることもしばしば。
そのためか、最近、胃が痛くなることがあった。
胃だけでなく、実は体調全般もよくなかった。
男はそれを、自分の年齢のせいだと思っていた。
周囲のすすめもあり、
男は3ヶ月かけてスケジュールを調整し、
ようやく、医師の診断を受けることにしたのだ。
診断結果は、
末期の胃ガンだった。
自由の代価 [フィクション]
蝶は先程からあがいていた。
好物の花のところに飛んでいこうとしたら、
突然、身体ががくんとが止まってしまったのだ。
周りを見れば、極彩色の羽に透明な粘つく糸。
蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
あがけばあがくほど、
糸は羽にまとわりついてくる。
そして巣を伝う振動は間違いなく、
巣の主を起こすことになるだろう。
でも蝶は、あがかずにおれなかった。
一縷の可能性に、かけたのだ。
だが、主は、目覚めた。
八本の足でひょいひょいと、
滑稽にすら見える動作で蝶に近づく。
牙からは透明な唾液の滴りすら見える。
蝶はもがき、あがき、身もだえし、よじり、震え、
はばたき、とにかくあらん限りの抵抗を示した。
が、蜘蛛の接近を止めることは出来ない。
蜘蛛の顎の鳴る音までが聞こえてきた。
蝶は恐怖に戦きながらもわが身を動かし続けた。
蜘蛛の足が、牙が、まさに蝶に突き刺さろうとしたとき、
蝶はふっと、わが身が浮かぶのを感じた。
蜘蛛の牙と足は空を切った。
やった!!私は自由だ!!!
蝶は空想の中で懸命に羽ばたきながら、
虚空に落ち、地表に叩きつけられた。
蜘蛛の巣には、
食事をし損ねた主と、
極彩色のちぎれた羽が残されていた。
好物の花のところに飛んでいこうとしたら、
突然、身体ががくんとが止まってしまったのだ。
周りを見れば、極彩色の羽に透明な粘つく糸。
蜘蛛の巣に引っかかってしまった。
あがけばあがくほど、
糸は羽にまとわりついてくる。
そして巣を伝う振動は間違いなく、
巣の主を起こすことになるだろう。
でも蝶は、あがかずにおれなかった。
一縷の可能性に、かけたのだ。
だが、主は、目覚めた。
八本の足でひょいひょいと、
滑稽にすら見える動作で蝶に近づく。
牙からは透明な唾液の滴りすら見える。
蝶はもがき、あがき、身もだえし、よじり、震え、
はばたき、とにかくあらん限りの抵抗を示した。
が、蜘蛛の接近を止めることは出来ない。
蜘蛛の顎の鳴る音までが聞こえてきた。
蝶は恐怖に戦きながらもわが身を動かし続けた。
蜘蛛の足が、牙が、まさに蝶に突き刺さろうとしたとき、
蝶はふっと、わが身が浮かぶのを感じた。
蜘蛛の牙と足は空を切った。
やった!!私は自由だ!!!
蝶は空想の中で懸命に羽ばたきながら、
虚空に落ち、地表に叩きつけられた。
蜘蛛の巣には、
食事をし損ねた主と、
極彩色のちぎれた羽が残されていた。