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人形町、新進気鋭、天ぷら賛歌 [食べ物系]

先日、人形町にある『天麩羅 新進気鋭』に連れて行ってもらった。

他に焼肉、寿司などを展開する「新進気鋭」グループの天ぷら屋で、たぶん自分では行くことの無いお高めのお店。住所非公開、食べログ等のグルメ口コミサイトにも投稿禁止とのこと。お高く留まってやがると、正直思わんでもない。

予約時間に店に入ると、店内はL字のカウンター。全8席程度、ゴールデン街の狭いバーくらい。飲み物や仕込みのバックヤードがあろうから奥行きはもう少しあるのだろうが、こじんまりとした店ではある。客は、我々二人の他、40歳前後だろうか、男女のペアの計4人。後に、我々、他のお二人、そして職人さんも、全員東北出身と知ることになる。

少しすると職人さんが現れ、その日の食材等の説明をはじめる。で、スタート。

先付でビールからはじめる。6種ほどある先付、どれもよいが、やわらかく滋味深く煮られたタコが印象に残る。期待が高まる。ビールを飲み干し、日本酒に移る。天ぷらが始まる。10種類ほど出されたが、特に良かったのは以下の4つであった。

・しいたけ
 厚さ2~3センチと、とにかく分厚い。貝あるいは肉を食っているかのような歯応えと旨味ではあるのだが、間違いの無い椎茸の風味が迸る。どこかなまめかしく、官能的ですらある。

・なす
 熊本かどこかの赤茄子とのことで、かまぼこ型に切られて提供されたが、こちらもデカい。口に含んで噛むと、とにかく汁気が多く、ほの甘い香りが漂う。熱々の果実のごとし。

・ヤングコーン
 ひげ付で登場。ひげの部分から口に入れると、コーンの香りに加え、衣と油の品の良さが改めてしっかりわかるのが驚き。コーン本体のしゃっきり感の愉悦は、言わずもがである。

・アスパラガス
 穂先、真ん中、根元と3つに分かれて登場。もちろんいずれもアスパラガスではあるのだが、香り、食感、味わいが3つの部位それぞれ微妙に異なるグラデーションが楽しい。

もちろん、エビもメゴチも、中心をレアに残したキンメダイも、アナゴも、そしてウニとキャビアをあしらった大葉の天ぷらも美味かったのだが、期待値を上回るという意味では、野菜類に軍配が上がった。

もしかしたら、天ぷらというのは、野菜類を美味く食べるのに最良の料理方法なのではないかとすら思わされる。

このとき、はじめて天麩羅にリースリングのドイツワインを合わせてみたのだが、これはこれで悪くない。いつしか、日本酒とワインをだらだら飲みつつ、天ぷらをかしゅかしゅと咀嚼し、居合わせた他の客や職人さんと各々出身の東北地方の話でわいわいし、そうこうしているうちに、二時間程度のコースは終わりを告げる。

楽しい時間は、瞬く間に。

最後、次回予約をきっちり入れさせるとこなど、しっかりとビジネスも感じたが、普段行くことも無いであろうシャレオツな天麩羅屋に連れて来ていただいたことは、ただただありがたい。そして、ある意味非日常の天麩羅屋に行ったからこそ、てんやとか、立ち食いそば、そしてスーパーのお惣菜などの、日常出会う天ぷらたちに、改めて、ひとしおの親近感と愛着を感じる。

人形町の夜を思い出すたびに、そんな、天ぷら賛歌な気分に浸ってしまうのである。

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共通テーマ:グルメ・料理

メタフィクションと混沌~『第三世界の長井』~ [読書]

かつてゲッサンで不定期連載され、そのたびに立ち読みしていた、『第三世界の長井』の1~4巻を改めて読んでみた。

帯に「ながいけん上級編」とあり、ながいけん閣下の代表作にして個人的には少年ギャグマンガの金字塔だと思っている『神聖モテモテ王国』(愛称:キムタク)のグルーピーで秘密マンションの秘密を暴きたい我が身としては、まとめ読みの期待180%(約二回期待する計算)。

で、だ。

むむむ(横山光輝三国志風に)。。。

立ち読みで読んでよく判らなかったのが、まとめ読みで、なおさらメダパニル感じ。

いや、確かに面白いのだよ?

キムタク以来のエッジの効いたパロディや、当時の時事ネタ(「シンゴー」)、無駄なポエム、何の脈絡なく中年男性の写真(主人公の父親)が登場するなど。なんか絵もうまくなった気がするし。個人的には、マッハエースの狂人ぶりの味わいが好きだし。

正直、これよりつまらない漫画は、世の中に、大量に流通している。

ただ、なんというか、読み返すたびに、「痛ましさ」や「苦悩」という、ギャグ漫画らしからぬフレーズが浮かぶ。推測に過ぎないが、おそらく、ながいけん閣下は、キムタク的な世界に対する、メタレベルでの説明を漫画の中で完結させようとして、収拾がつかなくなっている。

その傾向は、実はキムタク末期の当時からあったのであるが。

「こんなこと描いて、わかってくれるだろうか?」

そんな読者への不信に似た感情が透けてしまう気がする。説明なんか全くなくても、読者は読者で勝手におもしろがるのだが。

その辺りの潔さが、例えば、たぶん長尾謙一郎さんにはあるのかもしれない。そこにあるのは、ギャグマンガとメタフィクションと、そして混沌であり、漫画を読んであまり感じない気持ちになったので、備忘までに。

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紀伊国屋、モンスナック、カツカレー [新宿]

いつの間にか、モンスナックが紀伊国屋ビルに戻ってきていた。

とろみが付いてない、シャバシャバとしたスープ状のカレーが名物の店。年に一回くらいは顔を出しては、カレーを飲み下すのを常としていた。

あるときは、朝どころか昼まで飲んだ後にするすると喉と胃袋に滲みるカレーの滋味に感謝し、またある休日のランチ時に訪れ、常と異なるややもったりとしたダル(豆)カレーに舌鼓を打っていると、カウンターのはす向かいにいた知人N氏に気が付いて目が合い、お互い気恥ずかし気に会釈したこともある。

紀伊国屋ビルの改装に伴い近隣の別店舗で営業をしていたのだが、どうも紀伊国屋に無いモンスナックには気が進まず、行かずにいたのである。それが、帰ってきた。

で、夜の用事が済んだときに行ってみたのである。

以前は、店員が中を通れるU字状のカウンター席のみだったが、改装後はテーブル席とカウンター。店内に貼られていた有名人たちのサイン色紙も今は無く、歴史を感じさせるものは何もない。むしろ、モダンな感じすらしないでもなく、ちょっとだけ違和感。

とはいえカツカレーを注文し、待つことしばし。

運ばれてきたカツカレーの姿に、まずはほれぼれする。モンスナックに限らないが、カツカレーは好物なのだ。トンカツも好きだし、カレーも好き。カツカレーには、そんな欲望を存分に満たそうとするパワフルな業の深さがある。かつ丼もよいが、カツカレーの方が業が深いと思っている。褒めてる。

いそいそとカツをカレーにひたして食らいつく。カリ、ジュワ。揚げたてのカツの衣の食感に、口の中に広がる豚の脂と肉汁。それらを包むカレーの出汁とスパイス。モンスナックのカツはカレーと合わせるためかやや薄い印象だったのだが、心なしか、以前よりカツが厚くなった気もする。

ついで、カレーのみをスプーンで掬う。ベースはポークカレーであり、カツと含めて豚肉&豚肉。カレーにほとびた豚バラ肉のほろりとくる味わいは素晴らしい。もちろん、カレーはとろみのついてないシャバシャバだ。スープのように啜れば、カレーの香りと出汁のコクがきちんと立ち現れる。

佳き。

途中、知人のG氏が近くに席を取ったのが見えた。向こうも僕に気が付いたらしく、やはり、苦笑いしつつ軽く会釈し合う。

ともあれ、あとはほかほかの白飯で、カツとカレーのアンサンブルを楽しむのみだ。中年の衰えた消化器に喝を入れつつ、カツを咀嚼し、カレーと白飯を吸い込んでいく。皿は瞬く間に空になる。付け合わせのミニサラダでさっぱりし、満足満足。

カレーの名店、カツカレーの名店は数あるし、モンスナックよりも評判が良い美味しい店はあるに違いないが、それでも、モンスナックには、一抹のかけがえなさがある。

時は移ろい、人は死に、街は変わる。それは仕方ないことだ。自分だって10年前の自分とはいろいろな意味で変わっている。それでもなお、変わらない思い出の象徴のようなものが人や街に残っていると、何とはなしに、嬉しいではないか。

モンスナックのシャバシャバのカレーは、自分にとっての新宿のそんな嬉しさを灯してくれるものの一つなんである。

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