SSブログ
フィクション ブログトップ
前の5件 | 次の5件

【フィクション】あるよそ者の挽歌 [フィクション]

俺は、何のために生きてきたのだろう。
闇の中で目を見開いて、考えている。

俺の家族は、
何代か前にこの国にやってきたらしい。
それは結構昔のはずだが、
古くからいる連中から見れば、
俺は新参者の血筋だった。

直接は口に出さないものの、
それ故に、かえって陰湿な、差別。
新参者と土着の連中の間の諍いは絶えなかった。
親父もお袋も、いつも傷だらけだった。

閉鎖的でウジウジしていやがる、
俺はそんな土着の連中が大嫌いだった。
だから、不愉快な扱いを受けるたびに、
俺はあいつらを手ひどくたたきのめした。

そんな俺の姿に共感を覚えたのだろう。
いつしか、俺は新参者に慕われるようになり、
俺の周りには若い連中の取り巻きができた。

俺が新参者を従えるようになってから、
土着の連中は、いつも陰でこそこそすることして、
面と向かって俺たちに物を言えるヤツはいなかった。
俺は心からあいつらを軽蔑した。
俺らが昔そうされたように、あいつらを迫害した。

正直に言うと、
あいつらを慰みに殺したこともあったっけ。

こうして、新参者は、
この国ででかい顔が出来るようになった。

だが、それがいったい何の役に立ったのか。
もう決して若くない俺は、そう思ってしまう。

今の若いやつらは、
俺たちが力ずくで闘いとった今の立場が、
当たり前のように育ってきている。
ただ粋がってでかい顔をして、礼儀の一つもしらねえ。
昔のことを語ろうにも、年寄りは、俺を含め、
そう生き残ってはいない。

俺は、いったい何のために生きてきたのか。
いささか太りすぎた身体に走る全身の傷をそっと撫でながら、
そう思ってしまう。
きっと、こんな気持ちを、

絶望

と呼ぶのだろう。
俺はもう、十分生きた。
これ以上、世の中が悪くなるのを見たくはない。
いっそ身投げでもして、
死のうか・・・・・・

そんなことを考えていたら、もう周りは明るくなっていた。
澄んだ周りの景色に、俺は急に吹っ切れた。

見るとちょうど、付近を通りかかる影が見えた。
きっと、あれに、飛び込めばいい。

そして、
俺は明るい太陽の方へ、
勢いよく身体を踊らせる・・・・・・


「うわっ!」

ボートに乗った作業員の一人が、そう声を上げた。
もう一人が不思議そうに、

「どうしたんだ?」

先の一人がボートの一点を指さし、

「おい、見てくれよ!」
「おお、大物だな!どうしたんだ?」
「どうしたも何も、今、ボートに飛び込んできたんだ」
「1m近くはあるぞ?こりゃ、お堀の主だな」
「そうかもしれん・・・」

二人はしばし腕組みし、
巨大なブラックバスがはねるのをまじまじと見つめた。


【巨大ブラックバス発見!!○月×日】
宮城の堀で、外来種の放流により在来種が駆逐され、
生態系への影響が懸念されている問題を受け、本日、
政府の作業員が外来種の捕獲・駆除活動を行った。
その際、体長1メートルを超えるブラックバス(外来種)
が捕獲され、関係者を驚かせている。


タグ:外来種 駆除
nice!(0)  コメント(0) 

【フィクション】愛欲+1 [フィクション]

性交の後のけだるさは、なんて例えればいいのだろう。

わたしの背後で、精を放った彼が、
とても激しかった息づかいを整えているみたい。
それとなく、彼の方を向いて、
こうなるいきさつを思い出してみる。

わたしと彼が奇妙な同棲生活を始めてから、
いったい、どのくらいの時が経ったのか。
ありていに言えば、二人とも、ある日突然拉致され、
狭い空間に幽閉されたのだ。

なぜかは、わからない。

最初は、必死に逃げようともしたが、
わたしたちはあまりにも無力だった。
食事を与えられなかったこともあって、
日を追うにつれ、わたしと彼の衰弱は進んできた。

そして二人はだんだん、無気力になった。
だけど。

動物としての本能なのだろうか。衰弱したときに限って、
子孫を残したいという衝動がこみ上げてきた。
彼は、もともとわたしのタイプではなかったが、

(やりたい、かも)

ふと彼を見れば、
彼も、目をぎらつかせながらわたしを見ている。
彼の目には、わたしは一匹の雌。
わたしの目には、彼は一匹の雄。
もう、わたしたちを止めるものはなかった。

こうして性交を終えたわたしたちは、
とてもとても疲れていた。
そして食事を摂っていないことを思い出し、
猛烈にお腹が空いているのを感じた。

彼の方を見ると、わたしに背中を向けて、息を整えている。
とても無防備に見えた。

(あっ!)

わたしの両手は、わたしの意思とは無関係に、
彼の首へと伸びた。力の限り、わたしは絞めた。

彼は少しだけもがいていたが、しばらく締め続けると、
やがて力を失った。死んだのか、気を失ったのか。
もう、どちらでもいい。

わたしは彼の首筋をなめ回すと、
歯を立てて、一気に食いちぎった。
一片の、肉の味。

(美味しい・・・・・・・)

わたしは、自分を抑えることが出来なくなっていた。
首、手、足、胸、腹・・・・・・・。
彼を食いちぎり、食いちぎり、解体する。

さっきまで彼の形をしていたものは、
少しずつ、バラバラの肉塊に姿を変えていく。

わたしは、胎内に新しい命を感じながら、
たった一人のこの宴を心ゆくまで堪能していた。



男の子は先ほどから、
飼育ケースの中の情景に目を奪われていた。

「交尾の後、雌が雄を食べるって本当だったんだ・・・」

飼育ケースの中では、
雌カマキリが静かに口を動かしつつ、着実に、
雄カマキリを平らげていった。

nice!(0)  コメント(1) 

ラジコンカー [フィクション]

男の子は、ラジコンカーが欲しかった。

クラスの男の子の話題は、ラジコンカーで持ちきり。
一人、また一人、ラジコンカーを買ってもらっていた。
ただ、ラジコンカーは、子供のおもちゃとしては、
とても高価だった。

男の子は粘り強く両親にねだった。

両親に話をするとき、それが何の関係のない話でも、
最後にラジコンカーの話をするのを忘れなかった。
雑誌のラジコンカーの広告を、
両親の目につくところにわざと置いた。
トイレには、欲しいラジコンカーの写真を、
ぺたぺた貼り付けていた。
などなど。
陳情工作の執拗さに、両親は辟易するほど。

両親はついに折れた。

だがラジコンカーはとても高価だった。
そこで両親は、ラジコンカーを買うに当たり、
一つ条件をつけた。

『ラジコンの組み立てはお父さんのいるときに限る』

男の子が組み立てに失敗しては大変と思ったのだ。

ただ父親は忙しかった。
男の子が寝てから帰ってくることもしばしば。
休みもほとんど取れなかった。
だから、ラジコンカーの組み立ては遅遅として進まなかった。

あるとき、一人でこっそり、少しだけ組み立ててみた。
そのことがばれたとき、両親にこっぴどく叱られてしまった。
それ以来男の子は、とてもとても歯がゆい思いをしたが、
条件を守って堪えた。

それでも、三ヶ月ほどして、ラジコンカーは完成した。

友達と一緒に走らせたときの爽快感といったら。
男の子はそれまでの鬱憤を晴らすかのように、
毎日ラジコンカーを走らせて遊んだ。

ところがあるとき、ラジコンカーが動かなくなってしまった。
男の子はバッテリーかと思ったが、充電しても動かない。
どうも、中の機械の様子がおかしいらしい。

分解するには、父親に見てもらわなければならなかった。
ところが、父親は仕事が忙しく、頼んでも頼んでも、
なかなか見てもらえない。
そのため、ラジコンカーで遊ぼうと友達に誘われても、
男の子は断るしかなかった。

父親はなかなか時間を割いてくれなかった。

『仕事で疲れているのに、なんで子供のおもちゃを見てやらなければならないのだ』

父親の正直な思い。
母親も、そんな父親を慮り、
ラジコンカーの修理を無理強いすることはできなかった。

いつしか、子供達の間で、別のおもちゃが流行るようになり、
ラジコンカーで遊ぶ子供は少なくなっていった。
男の子が父親に修理を頼む回数も、だんだんと減っていった。

そして、
ラジコンカーは、埃をかぶったまま、棚の中で眠っている。

両親は男の子の飽きっぽさにあきれてしまっていた。

男の子は、ラジコンカーを見るたびに、
なぜか、
両親に対し、
恨みに似た気持ちを抱くのを押さえられなかった。

nice!(0)  コメント(0) 

ウイスキーの香り [フィクション]

いいウィスキーは、
いろんなことを思い出させてくれる。

客の誰もいない馴染みのバーのカウンター。
いささか薄暗いその隅(私の指定席だ)で、私は、
目の前のグラスに注がれたウィスキーを見つめていた。

とある、シングルモルトの30年物。

上質のカラメルのような色をした水面を、
少しくすぐるように揺らせば、立ち上る香気。

第一印象は、樽からのシェリー酒の香りが華やかに。
でもその底から、モルトの確かな、力強い香りが、
基調低音のように鼻腔に響いてくる。
それはそのウイスキー独特の、温かくて、爽やかで、
それでいて、ちょっと近寄りがたいドライな感じ。

無粋を承知で例えれば、経験豊富ながら瑞々しさを失わない、
一流の女優のような、そんな香り。

普段好きで飲んでいる10年物が、この香りを前にすると、
いじましいほど「若く」思われてしまう。

この酒が生まれた30年前に、私は何をしていたのだろう。
まだ、「将来何になりたいか」について、
可能性を考えずに語れる、小学生だったはず。

それから、いろんなことがあった。

私の人生は、人から見れば退屈この上ないのかもしれない。
人生を振り返るには、私はまだ青二才なのかもしれない。

でも。

草むらで虫取りをした思い出、
ゲームばかりで勉強をロクにせず苦労した浪人時代、
スノッブ気取りで、
わかりもしない古典を読みふけった大学時代、
いくつかの、とても不器用な恋、
「超氷河期」と言われた中での就職、
突然全てを投げ出したくなっての転職、そして、
そして、そして、そして、・・・・・・。

『若すぎて なんだかわからなかったことが
 リアルに感じてしまうこの頃さ』

気がつけば、小声で歌を口ずさんでいた。
少し気恥ずかしくなって、カウンターに目を向けた。
それにしても・・・

「マスター、今夜も順調に暇だね」

声をかけるとマスターは、 いかつい顔に泣き笑いのような
表情を浮かべて言った。

「今夜は、君を待っていたんです」

怪訝そうな私の顔を読み取ったのだろう。
マスターはいささか震える声で、とつとつと、語り出した。

一年前のこの日にも、この店で、
そのウイスキーを飲む機会があったこと。

その日には、ウィスキーが好きな常連達が集まって、
みんなでそれを飲もうと決めていたこと。

私も、そんな常連の一人だったこと。

私がとりわけ、その機会を楽しみにしていたこと。

そして、
その日にはなぜか、
私が来られなかったこと。

いいウィスキーは、
とてもとても大事なことを思い出させてくれた。

そうか。

そうだったのか・・・・・・

そのとき、バーの扉が開いた。
客が何人か入ってきて、そのうち一人が、
マスターに話しかけた。

「もう一年かぁ。早いもんだ」

「ええ。だから今夜はああして」

マスターが指さした薄暗いカウンターの隅には、
その、シングルモルトの30年物が注がれたグラスが置かれていた。

飲む人のいないそのグラスからは、 気高い香りがそこはかとなく漂い、
人々の記憶を優しくくすぐっていた。



nice!(0)  コメント(0) 

【フィクション】月の女王の涙 [フィクション]

物心ついてからは、病棟が、少女の世界すべてだった。
少女は、完治の見込みがない難病に冒されていたのだ。

極端な苦痛こそ無いものの、
病は日々ゆっくりとその身体をむしばんだ。
絶え間ない倦怠感と孤独感と焦燥感は、
彼女の精神をも損なっていった。

看護師はもちろん、医師や、見舞いに来た両親に対しても、
少女は、考えられる限りの罵倒の言葉を投げつけた。
言葉ではなく物を投げつけることさえも、
珍しいことではなかった。

皆、彼女の境遇に同情し、苦情一つ言わず、
できうる限りその意思に沿うよう努めていた。

こうして少女は、まるで女王のように、
病棟に君臨しているかのように見えた。

だが、彼女にもままならないことがあった。

女王は、ある若い男の看護師のことが、
とても気になっていた。
しかし自分の身体のことを顧み、その感情を、
こころの奥底に封じ込めようと努めていたのだ。

(わたしには、恋などできない)

だが若い看護師も、何とはなしに、
その気持ちに気づいていた。
なぜなら彼も、女王のことを好ましく思っていたから。

ある夜、消灯時間を過ぎたころ、
男は女王にナースコールで呼び出された。

「わたし、月が見たいの』」

夜の冷たい外気は、病には厳しい。
男は言葉を尽くして女王を説得しようとしたが、
その夜の女王はとりわけ聞き分けがよろしくない。

(まあ、短時間なら、平気か・・・)

男は、女王を屋上へ連れていった。

空は満月。
銀色の光が燦々と降り注いでいた。

女王は屋上の手すりにもたれ、
限りない憧憬に満ちたまなざしで、月や星を見上げた。
涼やかな夜風は彼女のつややかな黒髪を撫で、
月光は蒼白な顔を浮かび上がらせた。

男は、時間を忘れて女王に見入っていた。
女王はふと、男の方を向いた。
女王は、いや少女は、声も上げずに泣いていた。

男はためらわず少女を抱き寄せ、
そして涙の伝った頬に口づけた。
少女はおずおずと男の背に手を回し、
そして、か細い腕で力一杯男を抱きしめた。

それから、女王と男は逢瀬を重ね、いつしか、
唇を、そして身体を重ねるようになった。
それは文字通り、命を削るような行為であった。

女王の心は少しずつ和んでいき、周囲に優しくなった。
口さがない病棟内では、男と女王の間を勘ぐる者もいたが、
女王のご機嫌がいいことから、それ以上詮索しなかった。
ただ、女王が日々やつれていくことは、
もはやとどめることのできないものとなった。

そしてある日、女王は少女としてこときれた。
少女の顔には、うっすらと、満足げな笑みが浮かんでいた。

少女の死後、男は少女との関係の責任を問われ、
病院を解雇された。

男は少女の両親に会い、謝罪した。
少女の両親は、語彙を尽くして彼を罵り、
詰り、非難し、恫喝した。
男は何も言わずただ頭を下げただけだった。

男は、あの夜の満月が照らした少女の涙を胸に秘め、
生きていくことに決めていた。

nice!(0)  コメント(0) 
前の5件 | 次の5件 フィクション ブログトップ