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【フィクション】あるよそ者の挽歌 [フィクション]

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俺は、何のために生きてきたのだろう。
闇の中で目を見開いて、考えている。

俺の家族は、
何代か前にこの国にやってきたらしい。
それは結構昔のはずだが、
古くからいる連中から見れば、
俺は新参者の血筋だった。

直接は口に出さないものの、
それ故に、かえって陰湿な、差別。
新参者と土着の連中の間の諍いは絶えなかった。
親父もお袋も、いつも傷だらけだった。

閉鎖的でウジウジしていやがる、
俺はそんな土着の連中が大嫌いだった。
だから、不愉快な扱いを受けるたびに、
俺はあいつらを手ひどくたたきのめした。

そんな俺の姿に共感を覚えたのだろう。
いつしか、俺は新参者に慕われるようになり、
俺の周りには若い連中の取り巻きができた。

俺が新参者を従えるようになってから、
土着の連中は、いつも陰でこそこそすることして、
面と向かって俺たちに物を言えるヤツはいなかった。
俺は心からあいつらを軽蔑した。
俺らが昔そうされたように、あいつらを迫害した。

正直に言うと、
あいつらを慰みに殺したこともあったっけ。

こうして、新参者は、
この国ででかい顔が出来るようになった。

だが、それがいったい何の役に立ったのか。
もう決して若くない俺は、そう思ってしまう。

今の若いやつらは、
俺たちが力ずくで闘いとった今の立場が、
当たり前のように育ってきている。
ただ粋がってでかい顔をして、礼儀の一つもしらねえ。
昔のことを語ろうにも、年寄りは、俺を含め、
そう生き残ってはいない。

俺は、いったい何のために生きてきたのか。
いささか太りすぎた身体に走る全身の傷をそっと撫でながら、
そう思ってしまう。
きっと、こんな気持ちを、

絶望

と呼ぶのだろう。
俺はもう、十分生きた。
これ以上、世の中が悪くなるのを見たくはない。
いっそ身投げでもして、
死のうか・・・・・・

そんなことを考えていたら、もう周りは明るくなっていた。
澄んだ周りの景色に、俺は急に吹っ切れた。

見るとちょうど、付近を通りかかる影が見えた。
きっと、あれに、飛び込めばいい。

そして、
俺は明るい太陽の方へ、
勢いよく身体を踊らせる・・・・・・


「うわっ!」

ボートに乗った作業員の一人が、そう声を上げた。
もう一人が不思議そうに、

「どうしたんだ?」

先の一人がボートの一点を指さし、

「おい、見てくれよ!」
「おお、大物だな!どうしたんだ?」
「どうしたも何も、今、ボートに飛び込んできたんだ」
「1m近くはあるぞ?こりゃ、お堀の主だな」
「そうかもしれん・・・」

二人はしばし腕組みし、
巨大なブラックバスがはねるのをまじまじと見つめた。


【巨大ブラックバス発見!!○月×日】
宮城の堀で、外来種の放流により在来種が駆逐され、
生態系への影響が懸念されている問題を受け、本日、
政府の作業員が外来種の捕獲・駆除活動を行った。
その際、体長1メートルを超えるブラックバス(外来種)
が捕獲され、関係者を驚かせている。




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タグ:外来種 駆除
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