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刑法改正の閣議決定~不同意性交等の罪についての評価と懸念~ [警察・刑事手続]

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いわゆる不同意性交罪を含む刑法改正案、法務省の法制審議会での答申が出されたが、その後2023年3月に閣議決定もなされ、今後、議論は国会の場に移ることになった。

フェミニズム的観点から同意の無い性交への処罰感情が強く主張される一方、同意の有無と言ういわば主観的な要素は刑事裁判での証明が難しく、法律の条文案としてどのように構成するのか、法制審議会の議論などにちょいと関心を持っていたが、曲がりなりにも決着した形である。

⇒いわゆる不同意性交罪についての以前の個人的な意見はこちら
 https://daily-news-portal.blog.ss-blog.jp/2019-07-03

実際に閣議決定された条文案の不同意性交等に関する罪の「不同意」に関する記述をまとめてみると、概ね以下の通り8つの類型が示されている(末尾の法務省Webサイトのリンク参照。第176条)。

・暴行脅迫
・心身の障害への便乗
・アルコールもしくは薬物の摂取
・睡眠などの意識が不明瞭な状態
・同意する時間が与えられない
・予想外の事態への恐怖驚愕
・虐待由来の心理的反応
・経済的、社会的地位に基づく不利益の憂慮

そして、これら8つの事情により、相手が同意の意思を表明できない状態で行われた性交等をしたものを処罰対象にする、とのことである。現行の条文が「暴行又は脅迫を用いて」とあるのみなのに比べ、要件が具体化、細分化した印象だ。

いわゆる不同意性交罪に関しては、現行法における暴行脅迫要件や解釈上の「抗拒不能」という状態の証明のハードルの高さを問題視して処罰対象の拡大を求めるあまり、同意の有無と言う客観的に証拠が整いにくい要件を条文化することには、先述のとおり、正直懸念を持っていた。

証拠が整いにくく、検察の立証が困難な条文では、冤罪での捜査や、無罪判決のリスクが高まる。そうなると、警察や検察において、不同意性交罪での立件を躊躇するようになるはずだ。これでは、意図せずして、性犯罪被疑者の適切な処罰からは逆行する結果となる可能性がある。

しかし、今回の条文案を見る限り、単純な主観の「不同意」の有無を処罰の要件とするのではなく、8つの類型を設け、そこに当てはまる形で同意の意思表示ができないことを処罰の要件としている。

このような法改正、その内容は、暴行脅迫や抗拒不能といった従来よりも、裁判例や様々な性被害の実質的な態様に着目してきめ細かく要件を設定しており、端的に言って、よい改正だと思う。様々な立場の議論を巧くまとめ、法改正案に仕上げた法制審議会や法務省関係者の努力を評価したい。

ただ、これは不同意性交罪の新設というより、強制性交罪の要件の明確化といった方が、より正確であろう。その意味では、この「不同意性交等の罪」という名称に、若干の違和感が無いでもない。また、「不同意性交」という言葉が一人歩きしてしまうことには、ちょっと危なっかしさを感じている。

「不同意性交」という名称にしたのは、おそらく、法制審議会での議論などにおける政治的な駆け引きの結果であり、もっと言えば、法改正案をまとめるために、「不同意」の処罰を強く主張していた人々への忖度があったのだろう。

しかし、条文案を見る限り、不同意という多くの場合で内心の状況を罰する法律ではなく、事実の齟齬が無いでもない。そのため、「不同意」そのものを積極的に処罰するということを声高に吹聴したり、事後的な同意の撤回によるものなど「不同意」が処罰されることへの必要以上の恐怖を煽ったりする、条文の内容と異なる主張も出てくることだろう。

性犯罪被疑者への適切な処罰や、性犯罪の抑止は誰もが望むところであるが、その大前提として、刑罰法令への基本的な理解は無くてはなるまい。今後の国会での議論も含め、法務省や刑事司法の専門家を中心に、法改正の内容の適切な周知に努めていただきたい。

また、性犯罪対策において刑事罰は重要ではあるが、唯一無二の対策でもなければ決定打でも無い。刑事司法以外の性犯罪抑止や性犯罪被害者保護の取り組みについても、政府や民間連携の上、引き続き進めなければならないと思う。

≪新旧条文案:法務省Webサイト≫
https://www.moj.go.jp/content/001392298.pdf



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