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【読書】『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789~1815』 [読書]

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『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789~1815』(鹿島茂著 講談社学術文庫)を読了。

フランス革命から、帝政、王政復古を生き抜いた男3人のクロニクル。三者それぞれについては、別途伝記などを読んだことはあるが、三人並んで論じられているのを読むのは初めて。

(ちなみに、ツヴァイクの「ジョゼフ・フーシェ」は神!)

まあ、タイトル買いというやつですな。いやあ面白かった。イタリア遠征を皮切りに世界史でも稀な軍事的成功を重ね、コルシカ島の下級貴族からフランス皇帝にまで成り上がり、欧州を席巻したナポレオンは有名過ぎるかもしれないが、他の二人もなかなか食えない。

フーシェは、情報の収集と陰謀がライフワーク。革命期をジャコバン派として生き残った後、警察大臣として、全国津々浦々にスパイネットワークを張り巡らす。スパイは、老若男女貴賎を問わない。名もない一市民から皇后ジョセフィーヌまで、全てスパイとして篭絡。

その情報力で、混乱するフランスの治安維持に成功するとともに、ナポレオンを相手に、自分の権力維持を最大限に図る。ナポレオンや対立者の私生活上の情報まで熟知した静かな恫喝は、パンチが効きすぎていて痛快だ。

一方のタレーランは、貴族階級出身のエピキュリアン。美女と美食と社交と博打、そしてそれらの元手、金銭をこよなく愛す。片足に障害があるものの、持ち前の頭脳や上流階級出自の洗練された振る舞いで人々を魅了し、革命やナポレオンの軍事行動により孤立するフランスの外交を支えた。

特にロシア、プロシア、オーストリアのパワーバランスを読み、ウィーン会議で「敗戦国」フランスの権益護持に成功したのは、「魔術的」といってもいい。だから、汚職?贈賄?内通?それが何?といった感じ。

この3人が愉快なのは、倫理や宗教などの社会のルールを、てんで信じていないことだ。

現れ方は違えど、あるのは強烈な自負。それが、ナポレオンにあっては、軍事的成功として。フーシェにあっては、革命後の治安の維持として。そしてタレーランにあっては、外交的成功として。

三人の自負は、公益とも少なからず結びついているのが面白い。

著者は、この自負のことを「情念」と呼び、ナポレオンの「熱狂情念」、フーシェの「陰謀情念」、タレーランの「移り気(蝶々)情念」を対比する。個人の情念のぶつかり合いが歴史を動かしている様子が、生き生きと表現されている。

600ページあまりの文庫をさくっと読み終えて、日本の閉塞感の原因のひとつに、この手の情念が不足しているからか、などとも考えてしまう。さて、我が選良諸子は、どんな情念を、どの程度持っているのか。折に触れて意識してみることにしよう。



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