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鶯谷、公園酒、国連 [日常]

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新宿ゴールデン街の酒場で某店主とだらだら話しているうちに、ふと、二人で鶯谷の公園で飲んだことを思い出したのである。駅の近く、小さな公園の奥のベンチ、後ろはJRの線路で、前はラブホテルの入り口、そんな場所。

公園でしばらく飲んだ後、鶯谷の立ち飲み屋を何件かはしごして、最後は春菊天をつまみに仕上げ、ふらふらになるまで飲んだあの日。それがたぶん、7~8年ほど前か。

お互い話しているうちに、そこはかとない郷愁に誘われたのか、どちらともなく、もう一度、鶯谷の公園で飲もうかとなる。ちょうど、季節はゴールデンウィークだ。その場にいた何人かの酔客たちも興味を示す。僕と某店主は、来たければくればいいのスタンス。

で、当日。

僕らの平素の心掛けが良いのか、それまでの数日の悪天候がウソのように晴れ渡り、青空。当日朝、念のため某店主に連絡すると、朝まで飲んでいたらしいが、予定通り昼過ぎに向かうとのこと。昼過ぎを目指し家を出た僕は御徒町で降りて、吉池で自分の酒と肴を買う。酒は、缶のレモンサワーと缶チューハイ、あと、催事で売っていた日本酒、高知の「桂月」。肴は、諸々迷ったが、鮭皮のチップと乾燥貝ひも。あとは焼き海苔を買っておいた。

御徒町からアメ横を冷やかしつつ上野公園横の坂を上り、寛永寺横を通り過ぎて鶯谷へ。

示し合わせた時間には少し早いが、奥のベンチを確保しておきたく、件の公園につく。幸い奥のベンチは空いており、腰を下ろす。後ろは線路、前はラブホ。変わらないと思っていた景色に一点、喫煙所ができているのが変化。これも、時の流れか。

缶チューハイを開け、鮭皮チップではじめる。ラブホを出入する男女や、他のベンチで食事なり休憩なりする人々を眺めたり、持ってきた本など読んだりして過ごす。某店主の姿が見える前に、酔客一人合流。二人で徒然に話す。

小一時間ほど経て、腰のヘルニアをだましだまし、某店主がやってきた。隣のベンチに座り、三人での宴が始まる。いつの間にか酔客たちが三人ほど追加され、公園のベンチなり周囲の柵なり、思い思いに腰を下ろした六人、各自持参の酒と肴でやりだす。

途中、酔客の一人が隣のベンチに移動する様子を「クリミア侵攻だな」と他の酔客たちが囃したりなんだりする中、某店店主、円形のジャングルジムのような、敢えて言えばコスモ星丸の骨格標本みたいな遊具を指し、「あの国連を占領したいな」などと言いだす。その形からなのか何なのか、どうもその遊具を国連になぞらえているらしい。

少し酔った勢いでその国連に近づくと、回るタイプかと思いきや地面固定型。こじんまりとした遊具なのだが、土星の輪のような形で出っ張りがあり、登ろうとすれば足が上がらないし、ひっかからない。中に入ろうとすれば肩がつっかえて入らない。結局、酔客たち、土星の輪のところに缶を置いて立ち飲みするだけ。

「国連に戦略的な価値は無いな」某店主、そう言い捨てて、諸人、奥のベンチに戻る。

しばらくすると、小学校低学年くらいだろうか、近所住みと思われる男子と女子が公園に現れ、ボール遊びなどしだす。なんだか知らんがただただ眩しく、平均年齢で40歳を超える我々が声をかけては通報事案なので、ぼんやり眺めている。いつの間にか、皆、僕の持ってきた「桂月」を飲みだす。美味い。

ボール遊びに飽きたのか、いつしか子供たち、国連の方に近づいていく。すると子供たち、我々が難渋した国連を、いとも簡単に登り、くぐり、中に入り、登り、てっぺんに立ち、遊び倒しているではないか。何たることだ。僕らは国連でうまく遊べなかったのにも関わらず。感嘆と悔しさ。

子供たちが帰ったのを見計らい、酔客たちの精鋭が改めて国連攻略に挑む。果敢な挑戦の結果、二人が登頂に成功し、各々、国連のてっぺんでポーズを決めた。快挙と言えば快挙だが、一歩間違えば通報案件だ。「所詮、僕らはあの子供たちの二番煎じだよな」残念そうに語る某店主の言葉が、我々に滲みる。とはいえ、ケガが無く、通報されなかっただけでもありがたい。

その後、餌をやる近所の人々と公園の猫の交流を目にし、ブランコで遊ぶなりなんなりしているうちに、概ね手持ちの飲み物は尽きた。コンビニで酒を補充してそのまま公園で飲むのも悪くは無いが、誰ともなく移動を言い出し、公園を後にした。

ラブホ街を抜け、駅前の居酒屋。瓶ビールに、ハムカツ、肉豆腐、にんにくレバー、エビフライ、チーズ揚げなど、居酒屋メニューを存分に堪能し、一人1,375円の割り勘。鶯谷駅にて解散することに。名残惜しく無いと言えばウソになるが、飲み倒すほどの元気があるかと言えば、そうでもない。

7~8年の歳月は、僕らを何も変えなかったとも言えるし、気力体力の減退はじめ、全てを変えてしまったとも言える。でも、そんなことはどうでもいいのかもしれない。思い出が、また一つ積もる。

改札に入る前、見上げると、西に傾きかけた陽はまだ明るく、春の空はその青さを誇っていた。



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