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いわゆる「私人逮捕」に関する簡単なまとめ [警察・刑事手続]

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昨今、SNS上で「私人逮捕」が話題のようだ。youtuberが現行犯を確保するシーンを動画でアップし、それなりに再生回数を稼いでいるという。

≪参考ニュース≫
https://news.yahoo.co.jp/articles/4f738952fc1a773271a376e7dadc6ef13fe86c72

いわゆる私人逮捕については、被疑者とされた人への権利侵害のリスクに加え、逮捕者の逮捕行為が民事刑事で問題となるリスクも高いと考えている。すなわち、私人逮捕については限定的な状況でのみなされるべきだと思う。

なぜそう考えるのか。そこで、私人逮捕について、現行法上の規定を簡単にまとめてみよう。

いわゆる「私人逮捕」については、刑事訴訟法(以下、「法」という)212条から217条に定められており、特に法212条と213条が重要である。それらによれば、「私人逮捕」は、3つある逮捕の類型のうち、現行犯逮捕の一類型であることがわかる。

現行犯逮捕以外の2つ、すなわち通常(令状)逮捕と緊急逮捕については、裁判官の発する逮捕状が必要であり(緊急逮捕にあっては事後)、かつ、逮捕権者は「検察官、検察事務官又は司法警察職員」に限られている(法199条、210条)。

一方、現行犯の逮捕については、「何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(法213条)。逮捕権者が限定されておらず誰でも逮捕が可能なので、警察官等ではない人が現行犯人を逮捕することを、「私人逮捕」と呼びならわしている。

では、誰でもが逮捕できる被疑者である現行犯人とは何か。これは法212条で定められており、以下のとおりである。

1:現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者(→狭義の現行犯人)
2:以下のいずれかの者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき(→準現行犯)
 一 犯人として追呼されているとき。
 二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
 三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
 四 誰何されて逃走しようとするとき。

また、私人逮捕の場合は、逮捕した現行犯人を速やかに検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない(法215条)。加えて、法定刑が軽微な犯罪については、現行犯の要件だけではなく、犯人の住居氏名が不明、または逃亡のおそれが無ければ私人逮捕とは認められない(法216条)。

そもそも私人逮捕が法律上認められている理由は、次の2つである。

一つ目は、現行犯の場合、犯行が目の前で行われていて誤認の危険が少ないから。もう一つは、緊急性が高く、警察への通報などで犯人を放置すると、逃げられてしまい、被害が拡大するリスクが高いからである。また、逮捕権者を警察官等に限らないのは、犯罪の成立について一般人でも判断が容易な犯罪であることも、明示ではないが、想定されているといってよいだろう。

逆に言えば、犯罪の成否について、ある程度法律の専門的な解釈や事実認定の積み重ねが必要な犯罪や、逃亡や被害拡大の懸念が少ない事例については、私人逮捕はなじみにくいと考えられる。

その意味では、例えば、動画などで話題になったチケットの不正転売は、私人逮捕になじまない犯罪であろう。

まず、犯罪となる不正転売の法令上の要件として、「業として行う有償譲渡」があり、反復継続性が求められる。反復継続性の法令解釈については過去の事例との権衡などの専門性が求められ、私人による解釈には限界がある。また、反復継続している証拠を私人が集めるのは困難であるし、仮に証拠が集められるのであれば、現行犯逮捕で無く、警察に通報し、通常逮捕を求めるべきだからである。

そのような犯罪においては、本人が現行犯だと思っても現行犯には該当せず、適法な私人逮捕とはみなされない可能性が高い。その場合どうなるか。

言うまでも無いことだが、逮捕行為には、相手の手をつかんだり押さえつけたりなど、有形力を行使する場合が多い。また、警察等に引き渡すまでに逃げられないよう見張っておく必要がある。これらの行為は、暴行や傷害、ならびに逮捕監禁など、刑法上の犯罪とされる懸念がある。本人は私人逮捕のつもりだったとしても、正当防衛のつもりの行為が誤想防衛として犯罪となる場合があるように、犯罪になる可能性が高いのである。

しかも、私人逮捕が違法行為だった場合、その後得られた証拠や証言の証拠能力が否定され、合法な捜査を妨害することにもなりかねない。

さらに付言すれば、私人逮捕として処理されるか否かは、犯人の引き渡しを受けた警察等の判断によるところも大きく、逮捕行為時点で逮捕者による合法な私人逮捕だという判断が必ずしも尊重されるわけではない。

結局、私人逮捕が認められるのは、法律の素養の無い私人でも判断できるような犯罪で、
 ・緊急性が高い
 ・被害拡大の可能性が高い
 ・逃亡の可能性が高い
などの、ある程度限られた場合と考えた方がよいと思う。さもなければ、何らの権限も知識も無く勝手に現行犯人と解釈された被疑者にとっての権利侵害だろうし、それは逮捕者においては民事や刑事の責任を負わされることになりかねない。

犯罪の摘発は誰しも望むところだろう。目の前の犯罪行為があるとすれば、それに憤りを覚えるのは自然ですらある。しかし、それで法令への中途半端な理解に基づく人権侵害を横行させてはならないし、逮捕者が犯罪者になっては、本末転倒だろう。

私人逮捕は、現行の刑事手続きにおいて警察等の捜査機関を補助する役割にとどまるべきであり、それが前面に出て一般化する社会は、あらゆる意味で過ごしやすい世の中ではないはずなんである。



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