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『機龍警察 白骨街道』~エンタメが照らす現実~ [読書]

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機龍警察シリーズの長編第六作、『機龍警察 白骨街道』が刊行された。

これまでは、過去の回想を除き国内が主な舞台だったが、今回はミャンマーと日本の現在を行き来する。官邸幹部の意向で、混乱続くミャンマーに被疑者の受け取りに行く3人の警視庁特捜部付警部。一方国内では、城木理事官の親類企業も関与する、京都震源の大規模な贈収賄・金融事犯捜査が進展する。

治安維持をはじめ政府が機能しているとはいいがたいミャンマーで、機甲兵装含む度重なる襲撃を果敢に生き延びる部付警部たち。それと、刑事部捜査二課と特捜部、そして休暇で京都に滞在する城木理事官を軸に、裏付け捜査や政治的駆け引きの続く日本の現状が交錯する。銃器や機甲兵装が織りなす戦闘の火花と、世を蝕む犯罪にまつわる人々の闇。

雑誌連載中にミャンマーのクーデターが発生し、最終回ではそれをもクライマックスに飲み込み、物語は、登場人物たちに、そして読者に様々な余情と苦味を残しながらも、一定の方向に収束していく。

そこにあるのは、確かに、類まれな冒険小説であり、秀逸な警察小説である。しかしそれだけでは足りない。より以上に感じるのは、2021年という時代における一つの現実ではなかろうか。一人一人が自分の欲望と意思と矜持に従い、知恵を絞り己の任務を遂行し、ある者は生き残り、ある者は肉体的あるいは社会的に命を失う。血の滴るような現実感がそこにはある。

『白骨街道』という作品の基調低音として、コロナ禍やオリンピックをはじめとする現代日本に対する、溢れんばかりの義憤や批評性を感じるのは当然かもしれない。しかし、何より重要なのは、『白骨街道』は読んで面白いということ、何よりもまず、エンターテインメントであるということだ。世の中に対する熱い想いと、それを伝えるための冷徹な匠の技が、高い志で融合したとでも言えようか。

その幸福な融合によって、『白骨街道』は、読者に一つの現実を提示した。現代社会は、知識や情報が専門化・細分化され、あまりにも複雑であり、誰もが現実を見通すことができずにやきもきしているのではないかと思う。良質のエンターテインメントは、人々の生きざまを通じ、現実を照らす灯の役割を担っているのかもしれない。そう、『白骨街道』は、灯なのである。

さて、例によって例のごとく、今回も執筆協力をさせていただいている。この物語が一人でも多くの人に読まれ、それぞれの現実を照らす良きよすがにならんことを、なんとはなしに祈るんである。

<ハヤカワ・オンライン>
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014901/




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