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正当化事由概説~犯罪が違法ではなくなるとき~ [警察・刑事手続]

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刑法をはじめとする刑罰法令に触れれば、当然、違法な行為に対し刑罰を科されることになる。例えば、人を殺せば殺人罪。死刑、または、無期か三年以上の懲役刑である(刑法199条)。

しかし、一定の条件を満たせば、刑罰法令に触れた行為が違法ではなくなることがある。この場合、違法な行為ではないのだから犯罪は成立せず、刑罰を科されることは無い。要は、例え人を殺しても、違法性が無いという理由で、無罪放免となる場合があるんである。

このように、本来違法なはずの行為について違法性が無くなる(≒阻却される)理由のことを、「違法性阻却事由」と言う。また、違法ではなく正当化されるから「正当化事由」と言うこともある。違法行為をしたはずなのに正当化される事由とは、いったい何なのか。

そんな刑法上の正当化事由について簡単に触れてみたい。刑法上の正当化事由は3つある。「正当行為」「正当防衛」「緊急避難」である3つを順に見ていこう。

1:正当行為(刑法35条)
・法令又は正当な業務による行為は、罰しない(刑法35条)

例えば、ギャンブルは賭博罪(刑法185条)に該当する行為のはずだ。しかし、公営ギャンブルは競馬法なり何なり、それぞれ法によって認められているものだから、その範囲で遊ぶ限りは違法行為ではない。すなわち犯罪では無い。これが法令による行為の例。正当な業務行為の例としては、ボクシングの試合などがある。殴って人をケガさせれば当然傷害罪(刑法204条)のはずだが、刑法35条によって正当化され、やはり違法ではなくなる。

このように、法令に基づく行為や、社会的に行われている通常の業務の一環として行われている行為は、犯罪に該当するものがあったとしても、正当行為として違法ではなくなる場合があるのである。

2:正当防衛(刑法36条)
・急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない(刑法36条1項)

正当防衛は日常でも聞く言葉だが、刑法上の正当防衛は、日常用語よりもさらに意味が厳格である。つまり、何かイヤな目に遭ってやり返し、日常感覚的に「これって正当防衛じゃん!」と思っても、刑法上はそのように評価されず、通常の犯罪として扱われることが往々にしてあるということ。「急迫」だとか「不正」だとかについて、もうちょい細かく見てみよう。

(1)急迫
侵害が差し迫っていること。今、絡まれて胸倉掴まれて殴られそうなときに反抗する、というような場合が分かりやすい。逆に、昨日殴られたから殴り返しに行くとか、雑誌に名誉棄損記事が書かれたのが分かったから殴り返しに行くとか、時間的に間が空いてしまうと、急迫性を欠き、正当防衛にはならない。

(2)不正
違法な行為に対する防衛行為であること。例えば殴りかかられたような場合は、その相手は少なくとも暴行罪に当たる違法な行為を仕掛けてきているので、それに対し身を守る行動は正当防衛になる。
 逆に、自分にとってどんなに不愉快な行為をされても、それが違法行為でなければ、正当防衛は成立しない。例えば、自分の嫌いな製品を取り扱っている小売店に対しそれを止めさせようと嫌がらせをする行為は、違法行為に対するものでは無いから正当防衛にはならず、業務妨害罪の成立の余地がある。

(3)自己または他人の権利を守るため
当たり前だが、自分の権利も他人の権利も、権利というにはある程度具体性が無いといけない。例えば、目の前の人が、殴られそうとか、物をとられそうとか、痴漢にあっているとか、そういうケースが想定される。
 他人も、やはり具体的な存在でなければならず、例えば「〇〇人への人権侵害」を防ぐために違法行為を行ったとしても、〇〇人が誰なのか、人権侵害とはどのような内容なのかがある程度明確ではないと、正当防衛にはならないと考えられる。
 
(4)やむを得ずにした行為
要は、防衛行為ではない他の方法では権利を守れないという状況ということ。例えば、言葉で苦情を言えばいいだけの話にいきなり殴っていうこと聞かせようとするのは、正当防衛とは言わないだろう。

このように(1)~(4)をつらつら見ると、正当防衛は、痴漢しているやつの手をひねり上げるとか、胸倉掴まれて殴られそうなのを振り払うとかが典型的な例として考えられる。
 一方で、例えばデモや示威行動において、交通を違法に妨害したり店舗や人に違法な危害を加えたりするのは、いかにそのデモや示威行動の根拠となった事実が正しいとしても、急迫性などの要件に欠ける。つまり正当防衛にはなりえないだろうし、逆にその違法な行為に対する正当防衛が認められることだってあるだろう。


3:緊急避難(刑法37条)
・自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。(刑法37条1項前段)

緊急避難は、「現在の危難」≒「急迫性」、「やむを得ず」などの要件が正当防衛に似ている。しかし異なる点が2つある。それは、
(1)不正(≒違法)な行為に対するものであることが要求されていないこと
(2)これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限られること
である。

(1)不正(≒違法)な行為に対するものであることが要求されていないこと
正当防衛が不正な行為への防衛だったのに対し、緊急避難は現在の危難を避けるためならば、そのような要件が問われない。
 例えば、凶器を持った人に襲われて逃げているときに、誰かを突き飛ばしたり、店に陳列されている商品を倒してしまったりするようなことなどが考えられる。突き飛ばされた方は何もしていないし、店舗も何も不正な行為をしていないから、正当防衛にはならない。では、暴行罪や器物損壊や営業妨害罪が成立するのか。そこの間隙を埋めるのが緊急避難である。

(2)これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限られること
緊急避難は、不正な侵害に対する防衛ではない。現在の危難を避けるためとはいえ、関係ない人に一方的に危害を加えることになりうるので、その程度への限度が明文で示されている。
 さっきの襲われて追っかけられて逃げている例で言えば、人を突き飛ばすのは緊急避難にあたるとしても、邪魔だからと銃を掃射して人を殺傷しながら逃走するのはさすがに限度を超えるだろう。

冒頭述べたように、正当行為や正当防衛、緊急避難が成立する場合には、刑罰法令に触れるはずの行為でも違法性が無くなり、犯罪にならない。刑事責任を問われない。一方で、これらの正当化事由にはそれなりにきちんとした要件が条文で定められていて、判例の蓄積もある。この文章で触れられなかった論点もいろいろある。詳しくは、裁判例や専門書をあたっていただくのがよかろう。

ともあれ、わかりやすいごくごく典型的な例は別として、自分の行為が正当防衛や緊急避難に当たると自分で考えて刑罰法令に触れる行為を敢えてするのは、どんな崇高な理想があろうと、累積的抑圧経験があろうとも、あまりおススメはできないなと思うんである。



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