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【フィクション】アカデミックなフェティシズム [フィクション]

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銀色のメスが、男の胸の真ん中当たりを縦に滑る。
切り開かれた白い皮膚が、左右に幕を開けた。

カーテンのように、
胸から腹にかけての皮膚を左右に開くと、
男の体内が少しずつあらわになる。

ああ、もう。

皮下脂肪は、新鮮なオレンジのような色をして濡れ光り、
その下には、それなりに発達した大胸筋が赤々として。

つい、見とれてしまう。
いけない、いけない。

ここで、メスを置き、
少し大きめのペンチを取り出す。

パチン、パチン、パチン・・・・・・

肋骨を切る音が、軽やかに、部屋に響く。
全ての肋骨を切り終わると、胸骨を掴み、取り除く。
いよいよ、内臓だ。

真っ先に見えるのが、肺、心臓。
その背後には、血の滴るような肝臓。
死後それほど経っていないのだろう。
臓器は、そのままの位置に納まっている。

ときおり、体内に満ちた液体を掬いながら、
内臓を切り分けていくと、
胆嚢、膵臓といった臓器が姿を現す。

消化器は、薄い皮をしたチューブのよう。
胃の中を開くと、どろどろになった内容物。
気管は、蛇腹のビニールホースみたい。

内臓に飽きると、頭。

メスで、片方の耳の上辺りから、
頭のてっぺんを通り、もう片方の耳上へと弧を描くように、
皮膚を切り開く。
そしてバナナの皮を剥くように頭皮を前後に剥くと、
まるでライチのように白い、頭蓋骨と出会う。

ここで獲物は、メスからのこぎりへ。

シュッシュッシュッシュッ・・・・・・

白い鋸屑をまき散らしながら、脳を切らないよう丸く、
頭蓋骨を切り出していく。
九分ほど切ったところで、ノミを切れ目に当て、
ハンマーで叩くと、

コンッ!

軽い音がして、薄いお椀のように、頭蓋骨が外れる。
そして取り出すのは、

脳。

乳白色の色をした塊はゼリーのようでプリンのようで、
ふよふよしてとてもデリケート。

脳を取り出すと、今度は、
取り出した内臓と脳を台に並べ、一つ一つうっとりと、
鑑賞する。

こういうときに痛感するのは、
わたしが、
屍体を、
大好きだということ。

止められない。

つい、時を忘れてしまいそうになる・・・・・・



「・・・先生、先生!」

肩をこづかれ振り返ると白衣の男。
ああ、助手だ。

「だいぶ、お疲れのご様子ですね。
 今日は3体目ですし。他の先生が休暇中で、
 今、先生しかいないからどうしても・・・」

マスクのおかげで、恍惚とした表情を、
助手に悟られることはない。

「いいのよ。わたしなら、平気。
 今日はこの一体で最後だから、解剖を続けましょう!」

つい、声がうわずってしまった。

助手は何か言いたげだったが、
わたしは相手にせず臓器の見分を行う。

ほのかに屍臭を漂わせつつ、法医学教室は、
今日も平和に一日を終えようとしている。



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