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【フィクション】困難な依頼 [フィクション]

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私の大事なポチがいなくなって、
もう三ヶ月になる。

掃除をしようと、少しの間、小屋から外に出したのが間違いだった。
それきり、姿が見えなくなってしまったのだ。

外はとっくに冬。

きっと毎日震えて暮らしていることだろう。
家に帰れば、温かくて、美味しいもいっぱいあるのに。

まだ、三ヶ月ほどの短い付き合いだが、
いなくなってからは、ポチの大切さが、
身に染みてくる。

家族のいない私にとっては、唯一の身内のようなもの。
エサを差し出すと、小さく黒い身体で、
まっしぐらに私の下へやってきたっけ。

それに何よりはあの鳴き声。
あの声を聞けば、どんなに怒ったときも、辛いときも、
気持ちが和らいでしまう。

そんなポチが、いなくなってしまったのだ。

近所に張り紙もしてみた。
広告も出してみた。
でも何の情報も入ってこない。

そこで、探偵事務所に依頼してみることにした。
いくつかの事務所について調べ、
多少料金はかかるものの、
この手の調査に実績のあるところを選び、電話。

「はい、○○探偵事務所でございます」
「あの、ペットがいなくなってしまいまして、相談を・・・」
「わかりました。まずはこちらにご足労いただいて、
 お話しいただくことになりますが・・・」

こうして、アポイントメントを取り、
探偵事務所へ赴くことに。
探偵事務所は、とても大きなビルのワンフロアを
借りたものだった。
受付の女性は知的な美女。

「電話で連絡した者ですが」
「うかがっております。こちらでお待ちください」

応接室に通されると、ほどなく、
高そうなスーツに身を包んだ、中年の紳士が入ってきた。
彼が差し出した名刺を受け取り、いよいよ相談。

「この手の依頼では、我が社は業界でも一番の実績です。
 どうかご安心を」

その言葉で私の緊張もほぐれたのか、
ポチのいなくなった経緯、
ポチとの思い出などを、
ときおり相手の質問に答えつつ、
熱っぽく、熱っぽく語った。

ところが、話が進むにつれ、
相手の表情が困惑の度合いを増してきた。
私は、つい熱くなりすぎたのかと思い、

「どうか、したのですか?」
「いえ、そういうわけでは・・・ただ・・・」
「ただ?」
「我が社では、もしかしたら、そのご依頼、
 責任を持ってお引き受けすることが、
 難しいのではないか、と・・・」
「どういうことですか?!」

つい、声が乱暴になってしまう。

「ええ、あのですね、ええと、念のため、
 もう一度、『ポチ』について、
 教えていただけませんか・・・」
「さっき言ったと思うのですが?」
「あくまで、念のため、です」

私は、不信感に近い気持ちを抱きながら言った。

「私は、エンマコオロギの『ポチ』を、
 探しているのですがね・・・」



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