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【読書】戦略家ニクソン~政治家の人間的考察~ [読書]

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『戦略家ニクソン~政治家の人間的考察~』読了。

面白かった。

アメリカを中心とする資本主義陣営とソ連率いる社会主義陣営、
世界を二分する冷戦の只中、1972年。

アメリカ合衆国大統領ニクソンは突如訪中し、
社会主義陣営のはずである中国と外交関係を結ぶことを表明。

これによってソ連は、アメリカと中国の二正面作戦を
強いられることになり、戦略的に厳しい立場へと追いやられた。

そしてドラスティックなアメリカのこの外交政策の転換は、
日本に大きなショックを与え、狂騒的ともいえる、
「日中友好ブーム」がやってくる。

パンダとか。

本書は、このアメリカにおける外交政策の大転換について、
ニクソンの個人的資質の形成と絡め、簡潔にまとめてある。

中ソ対立、ベトナム戦争、極東における勢力均衡、
アメリカの相対的な地位の低下、日本の経済的な台頭etc・・・。

アメリカをめぐる様々な状況下、それまでの政治経歴の中で
固めてきた米中対話という戦略を胸に秘め、1969年、ニクソンは、
大統領に就任する。

そして、中国に様々な外交的なシグナルを送り、
感触を探るとともにその地ならしを進めた。

それらのシグナルが、非常に心憎い。

・中国向け旅行制限の緩和
・ベトナムからのアメリカ地上部隊の撤退を宣言
・パキスタン、ルーマニア首脳を仲介とした中国への打診

そして何よりは、

・いわゆる「核抜き」での沖縄の日本への返還

これらは、一つ一つを見れば独立の政策である。

しかし、これらをつなげて後知恵的に見れば、
当時ソ連との関係悪化に苦慮していた中国への、
関係改善のシグナルということになる。

もっと具体的にいえば、

「アジアでは、アメリカは中国と軍事衝突を起こす気はない」

だから、敵対関係をやめよう、ということを示す。

当時そのことに気づいていた有識者はほとんどいない。
ただ、これらシグナルの意味を正確に理解する人物が、中国にいた。

周恩来首相。

イデオロギーを無視したパワーポリティクスの発想で、
ニクソン訪中をクライマックスとする米中接近が、
水面下で着々と準備される。

ところで、当時の日本。

その外交的懸案はアメリカからの「沖縄返還」だった。
そして日本から見た最大の論点は、「核抜き本土並み」の返還。

中国との接近を視野に入れている以上、
アメリカにとって「核抜き」は既定路線だったといってよい。

その意図に気がつかなかった日本は、「核抜き」をアメリカに
認めさせる??ために、貿易交渉などで譲歩を強いられる。

また最近明らかになった、核持ち込みのいわゆる「密約」も、
米中接近を念頭に置くと様相が変わる。

それは、日本の世論に配慮するためのものではなく、
中国を刺激しないためのものである、という結論に至るだろう。

むしろアメリカは中国をだましたのである。

要は、沖縄返還、日本にとっては一大事だが、
アメリカにとっては対中国のためのカードに過ぎなかった、
ということ。

日本がお人よしなのか、アメリカが狡賢いのか。

ともあれ、日本の外交は、もしくは日本人の世論は、日本にとっての
トップイシューが相手にとってもそうであるという「幸せな思い込み」
に浸る傾向があるのではないか。

そこから脱するには、相手国の国益から見て、
日本の主張を吟味する必要があろう。

そのためには、もし自分が相手国の首脳だったら、
その国益を守るためにどうするかということを、
想像してみるのがよいと思う。

その国の外交環境や、地政学的な位置、国内情勢、これまでの歴史、
首脳同士の関係等々、知識と想像力を駆使してみる。

日本外交、ひいては日本人に欠けているのは、この種の、
想像力を駆使した遊びではなかろうか。




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