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ある演出家の苦悩 [フィクション]

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公演日が迫っていた。

にもかかわらず、演者や合唱団、ダンサーたちの完成度は、 私が求める水準から、大きく、大きく下回っていた。 公演では、国内外から多くの観客や来賓が来ることになっている。 そして何より、私の美意識が納得いかない。

私は、関係者全員に居残ってもらい、何度も何度も、 リハーサルを繰り返させた。 彼らも、水準の低い公演を見せるくらいなら死んだ方がマシ、 そう思っているに違いない。国中から選抜されて来た者達だ。

しかし、なかなか理想的なパフォーマンスができない。 私は、懇切丁寧にだめ出しをし、リハーサルをさらに繰り返させた。

いつしか、時間は深夜に及んでいた。

私も、疲れて来たが、 芸術的な価値だけは、譲る訳にはいかない。 見かねた秘書が、おそるおそる声をかけて来た。

「あの、明日午後の公演までは時間があります。少々、彼らにも休んでもらってはいかがでしょうか?」

「君は何を言うんだ?今日出来ないものが、明日になったら出来るというのか?バカも休み休み言え!」

つい、声を荒げてしまった。秘書は飛ぶように逃げ走り去る。 リハーサルはなおも続き、日付が変わった。 私も疲れて来たので、小休止を入れることにした。折りたたみイスに座る私に、見慣れた男が近づいて来る。

人民会議議長だった。私はけだるく声を掛けた。

「議長、どうしたのです?」

「今日のところは、そろそろ、おしまいにしてはどうですかな?」

「しかし、、、このままでは、、、」

私は立ち上がろうとして、よろけてしまった。

「ほら、そのようにお疲れのご様子ではないですか。彼らにも、数時間の休憩は必要です。それにあなたも」

「そうでしょうか。。。」

「ええ。あなたはお夜食もとられていない。明日のご公務もございます。 ひとまずお休みなさいませ、将軍様」

私の内心に不満がないでもなかったが、年長者の議長の顔をつぶす訳にもいかない。
明日の建国記念式典に一抹の不安を覚えつつ、私は休息することにした。



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