SSブログ

渡航の自由か、生命身体の保護か。旅券返納命令について [政治]

スポンサーリンク




いわゆるイスラム国が支配しているというシリア地域への渡航を計画していた新潟市のフリーカメラマンに対し、政府は、旅券の返納を命じ、フリーカメラマンも返納に応じました。

カメラマン側は、「取材、報道の自由、渡航の自由」を理由にこの命令を不服として法的に争う構えを見せる一方、官房長官も定例会見でこの問題に触れ、「海外に渡航する邦人や海外に在留する邦人の安全の確保にも極めて重要な責務があり、批判は当たらない」と述べ、適切な対応だったという認識を示しました。

では、制度上どのように考えるべきでしょうか。

まず、カメラマン側の主張する「取材・報道の自由」は憲法21条、「渡航の自由」については、憲法22条に定められていると一般に解されています。その一方で、旅券法によれば、「著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」について旅券を発給しないことができ(旅券法13条1項7号)、「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」には旅券を返納させることができます(旅券法19条1項4号。応じない場合に、刑事罰含めた罰則あり)。

もちろん、旅券がなければ合法的に海外渡航はできないので、旅券法の規定は海外渡航の自由などに抵触する可能性はあります。

このうち、旅券法13条については、海外渡航の自由も「公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべき」として、規定を合憲とした最高裁判断が出ています(いわゆる帆足計事件(最高裁判所大法廷判決昭和33年9月10日))。しかし、19条をめぐる論点には、司法の判断は下されていません。

もし、カメラマン側が法的に争うのであれば、旅券法19条の定める要件と、その渡航制限の程度について、主張立証がなされることになるでしょう。

個人的には、後藤さんが殺害された事件もあり、そのような中で渡航することについては疑問もあります。ただ、今回の旅券返納命令がどのような根拠でなされたのかについては、政府に説明責任があると思います。「危ないから行くな」と十把一絡げに言われても、物見遊山で行く観光客もいれば、現地のネットワークがあり現地で庇護を受けることが期待できるような場合、重要な役割を持っている場合など、事情は様々です。

法的な争いの中で、渡航者の目的や役割、渡航への安全に対する措置の程度と、旅券返納以外の渡航制限手法について、お互いの主張立証を重ねて、ある種の基準を作っていくことが合理的だと思います。政府も、ただ危険があるだけではなく、渡航予定者の具体的な事情に即応して判断すべきでしょう。

さて、一般の観光客と異なり、ベテランのジャーナリストの方は、現地や他国ジャーナリストとの人脈などもあり、その情報網や取材結果は国家のインテリジェンス上も役立つことがあろうかと思います。ジャーナリストではありませんが、かつて金正日の料理人を務めたとされる藤本健二氏が、北朝鮮関連の有力情報筋の一つだと報じられたことがあります。

ジャーナリストというと、政府や国家と対立するイメージが強いですが、インテリジェンスの側面や個人の安全保障の面から協力し合うことはできないものかと、考えてしまいます。



スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました