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『欺す衆生』感想~かくして人間は妖怪へ~ [読書]

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『欺す衆生』(月村了衛)読了。

面白かった。

ささやかな希望を持つに過ぎなかった男が、多くの人の金と欲と命の業火の中で窯変していく物語。

かつて豊田商事をモデルとする詐欺企業の一員で、現在では妻子思いでつましい暮らしをしていた主人公隠岐は、当時の同僚因幡の勧誘に乗り、導かれるままに、様々な詐欺ビジネスの渦中に放り込まれる。

苦悩しながらも詐欺の才能に目覚める隠岐は、社内での勢力争い、暴力団との交際、表向きの顔として設立した投資顧問会社の運営など、金銭とそれによる妻子の生活水準向上と引き換えに、真っ当ではない社会にズブズブと嵌っていく。

隠岐を誘った因幡は、隠岐に次々とビジネスの餌を与え、まるでメフィストフェレスのように、決して放そうとしない。そして、隠岐は表向きの投資顧問会社の腹心の裏切りに合い、そして詐欺ビジネスでも頼みにしていた部下にも裏切られ、暴力団が持ち掛けた彼らの死を黙認する。

メフィストフェレスであったはずの因幡も、いつしか精神を錯乱させ、暴力団によるトラブル対処において、文字通り致命的な過ちを犯す。ビジネスを、そして生活を維持するために、もはや暴力団との関係は切っても切れないものとなっていた隠岐は、暴力団に対するケジメとして、自らの手で因幡の命を奪うことを余儀なくされる。

因幡を失い独り立ちしてしまった隠岐は、詐欺組織の運営に、万全の才能を開花させる。大企業や政治を巻き込み、不正を嗅ぎつけたジャーナリストを国外で処分する策を立てるなど、その姿は、因幡とのビジネスにおいてかろうじて保っていたはずの倫理のタガが外れたかのよう。

そんな隠岐にとって大切なのは、やはり妻と二人の娘、すなわち家族だった。

家族の暮らしを守るために詐欺組織を回してきた隠岐だが、その多忙さは家族への配慮を失わしめるのに十分だった。いつしか、妻や娘たちとのコミュニケーションが失われ、個々人が相互理解からほど遠くなってしまっても、まだ、隠岐はかつて家族であったものを愛し続けようとした。上の娘が結婚詐欺被害の危険に遭遇したとき、彼は政治家をも巻き込んで全力でその阻止にあたり、そして成功する。

公私ともに当面の苦難を乗り越えた隠岐は、もはや、自分を誘い込んだメフィストフェレスである因幡の存在も、そして自らの手によるその死をも記憶のかなたに追いやって、当面の詐欺に邁進。

ここで、物語が終わる。

隠岐は、妻と娘を愛しその幸せのために懸命に働くという至極真っ当な人間だった。しかしその一方、あるときは因幡と、そしてあるときは彼自身が作った詐欺の仕組みは多くの人々から財産を奪い、そして彼自身、周囲の人々の死に直接・間接に関与してきた。

そこにいるのは、あくまでも人間的な存在を目指しながら、多くの人間から金と涙と命を搾り取る、矛盾をはらんだ一人の妖怪であった。

物語が進むにつれ、隠岐は一歩、また一歩と妖怪に近づいていく。人間が人間としての幸せをつかもうとするならば、その人間は妖怪にならざるを得ないのだろうか。人間が人間として幸せであることは、不可能なのだろうか。

エンターテインメントと言うにはあまりにも哲学的であり、哲学というのはあまりにも痛快すぎる、『欺す衆生』は、物語をつうじて、そんな、生きることと幸せとを深く考えさせられる読書体験だった。

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Irwin

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