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相次ぐ性犯罪の無罪判決と、司法報道の役割 [事件]

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各地の地裁で、性犯罪で起訴された事件の無罪判決が続き、反響を呼んでいる。

具体的には、3月12日福岡地裁久留米支部が、被害者が「抗拒不能」と認められても、それに「乗じた」行為でなければ、準強制性交罪は成立しないとして言い渡した無罪判決や、3月26日に名古屋地裁岡崎支部で言い渡された19歳だった実の娘への2件の準強制性交罪に問われた事件の無罪判決など。

このような無罪判決に対し、インターネット上のみならず、具体的なデモを通じての抗議が相次いだ。

確かに、非道な犯罪を犯した人物は法によって裁かれるべきだと思うし、それができない無罪判決に強い憤りを覚えるのも理解できる。もしかしたら、現行法の犯罪の構成要件の定め方に問題があるのかもしれない。

ただ、結論に抗議したい気持ちは当然であるにせよ、今回の各判決が、どのような過程で無罪を導いたのかが、きちんと解説されている報道や意見は多くないように思える。具体的には、検察がどのような証拠を用い、どのような立証を試みたのか。弁護側はそれに対してどのような反証を加えたのか。裁判所がどのような証拠を採用して、どのような事実を認定して、無罪判決に至ったのか。そして、裁判所の判断は、同種の事件における判断と比べ、特に被告人に優しい判断だったのか。等の諸点である。

これらの諸点が大切なのは、それによって今後とるべき対策は異なるからだ。

これが例えば、検察官の主張・立証にミスがあったり、弁護側の弁護活動が優れていたりと、事件個別の要素であるのかもしれない。また、他の事件の判決と比較した場合、裁判所の判断が異例だったのかもしれない。これらはいずれも、その事件の上訴審で、改めて検察側と弁護側の主張と反論で解決すべき問題だと思われる。

また、今回の判決が、検察のミスや弁護側の極端なグッジョブがなく、また他の同種の判決と比べても判断基準に大きな齟齬はないのならば、現行刑法の構成要件上の限界なのかもしれない。その場合は、刑法の条文を変えるべきとの意見が出るのもありうるだろう。

もしくは、この種の性犯罪事件が、他の事件と比べて明らかに無罪となるケースが多いのであれば、裁判所が検察に求める立証基準や、そもそも検察が起訴すべき判断の基準も考え直さなければいけないのかもしれない。どんなに犯罪が疑われる人であっても、裁判で無罪になる可能性が高い人を無理やり起訴するのは、好ましくないと思われる。

重要なのは、報道からだと結論しかわからない、ということだ。

無罪判決それ自体の問題や、それが孕む制度上の問題について議論をするには、判決文自体はもちろん、裁判において提出された証拠や、それに対する主張や立証、そして反論、加えて、同種事案との比較や刑事事件全体における事件の位置づけなど、広範囲な情報が必要だと思う。そういった情報が無ければ、まさに暗闇の中を手探りで進むようなもので、的を射た意見など考えられるはずもない。これは、一般人はもちろん、事件に対する詳細な情報を知らない法律の専門家も、同じような境遇にあると言える。

結果、第一報の結論に対する感情的な条件反射に基づき、各自が自分の言いたいことを言いたいように垂れ流すだけになり、具体的かつ建設的な議論や問題提起がされることなく、ニュースは感情とともに消費されて終わってしまう。一か月もすれば、みんなが忘れ果ててしまうことになるだろう。

性犯罪に対する無罪判決というある意味センセーショナルな結論を、世の中の制度や運用をより合理的なものにするための議論に変えるには、判断材料となる、よりきちんとした情報が不可欠だ。そのために、専門家と人々の間の橋渡しである司法報道の果たす役割は大きい。実際、法律の専門家であっても、個別具体的な事件の内容についてまで詳しいとは限らず、個別の事件を取材して記事を書く司法報道の役割は、専門家とは異なる意味で重要だと思う。

しかし、司法報道が現状その役割を適切に果たしているとは、言い難いのではなかろうか。

司法報道の役割は、単にセンセーショナルな結論をセンセーショナルに煽るだけでは全く足りないと思うし、もしそれで足りるとするならば、何も専門の司法記者など不要だとすら思う。もし、司法報道が何らかの価値を持つとするならば、専門家と一般人との間の知識や理解のギャップを埋め、司法制度やその運用の改善に向けた議論を促す視点を提供することであろう。

そのためには、刑事司法を専門としない人に対する判決文およびそこで使われている用語の解説に加え、緻密な取材に基づく事実関係の紹介、および、公判で実際に提出された証拠やそれに基づく主張や立証のポイントなどを分かりやすく伝える努力が求められていると思うのである。

今回の無罪判決を見るように、司法制度に関する人々の関心は決して低くないと思う。司法報道のさらなる改善を期待したいところである。



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