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【フィクション】責任の行方 [フィクション]

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私は公務員。

とある案件の文書を起案し、上司である係長の、
決裁を仰ごうとしたときのことだった。

係長は文書をチラと見て曰く、

「これは私じゃないな。課長にあげてくれ」

そう下命された私は、課長室に入り、
案件と文書の説明をした。

課長は少し思案げな顔をした後、言った。

「これは、私レベルの話ではない。局長にあげてくれ」

そう下命された私は、局長秘書にアポイントを取り、
しばらく待たされたあげく、ようやく局長室に入り、
局長に案件と文書の説明をした。

局長は、腕組みをしてうなりながら聞いていたが、
私が話を終えた後、こう言った。

「これは、私が判断して良い案件ではない。次官にあげてくれ」

そう下命された私は次官の秘書にアポイントを取った。
三日後に15分だけ、次官の日程が空いているとのことなので、
その日私は、次官室に入った。次官室に入るのは、初めてだった。

私は、初めて近くで見た次官に対し、
これまでの経緯と、案件と文書の説明をした。
次官の質問に答えているうちに15分はとっくに過ぎた。
ひとしきり質疑応答が終わると、次官から指示を受けた。

「これは、役人レベルで解決できる問題ではない。大臣に説明してくれ」

そう下命された私は、大臣秘書にアポイントを取り、
大臣の日程を押さえようとした。
大臣は、次期総理の評判もある有力政治家。
一週間後に10分だけ時間を割いてくれるとのこと。
その日、赤絨毯のふかふかした大臣室に入った。

これまでの経緯と案件と文書の説明をすると、
大臣は身を乗り出して聞いてきた。
それらに答え終わった頃に時計をちらりと見ると、
30分は過ぎていた。
へとへとになった私に大臣は声をかけた。

「これは内閣全体の問題だ。総理大臣に判断を仰ごう」

(総理大臣?)

一瞬耳を疑ったが、確かにそう下命された私は、
首相官邸にアポイントを取った。
折悪しく外遊に出たばかりの総理大臣は、
10日後にならなければ帰ってこず、しかも、
私に割ける時間は5分だけとのこと。

その日、官邸の入り口で、
厳重にボディチェックを受けた私は、
いよいよ総理大臣の部屋に通された。

テレビのニュースで見たことのある総理大臣は、
私の説明に対し大いに関心を示し、
ときにはうなずき、ときには質問を入れつつ、
やりとりが続いた。
途中秘書官が何度か入り、総理に紙片を手渡すが、
総理はそれを見ようともせず私と話し続けた。
話が尽きたころ、秘書官が大変焦った様子で入ってきて、
総理に耳打ちした。時計をちらり見ると、一時間は経っている。
総理は一言、

「そうか、大統領が・・・」

と漏らした後、私に対し、

「その件を私だけで判断するのは、非民主的だ。
 広く国民の意見を聞いてくれ」

(広く国民の意見・・・)

私は呆然とした。だが、確かにそう下命された私は、

今、

国民一人一人に、説明し、意見を聞いている。

ようやく昨日、
一千万人を少し、越えたところだ・・・



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