SSブログ

『冒険者』の『酒場』 [フィクション]

スポンサーリンク




『酒場』でカウンターの隅に腰掛けながら、
俺は、若い連中のやりとりを見ていた。
何やら、『おやじ』ともめているらしい。

どうせ、
『酒場』の『おやじ』から紹介された仕事の、
割りが悪いって話だろう。

『勇者』じゃあるめいし、
仕事をもらえるだけありがたいと思え。
俺は連中に聞こえないよう、
小さな声で毒づく。

『冒険者』になったからって、
すぐにでも『勇者』になれるわけじゃない。
『勇者』になって富と名声を手に入れるヤツなんて、
ほんの一握りだ。
小さな仕事を通じて金を貯め、『技』を磨き、
少しずつ、大きな仕事をする力を蓄える。

後は、
いつくるか知れないチャンスを、
じっと伺うっていう仕組み。

つまりは運次第なのだ。

だが大方は、日銭稼ぎの小さな仕事に汲々として、
あっという間に年をとってしまう。
俺はしわだらけになった自分の手を、
じっと見つめた。

俺には、日銭稼ぎの仕事すら、
しばらく回ってきていない。
『勇者』どころか、生きるのもカツカツだ。

俺はコップになみなみつがれていた、
安酒をあおった。
頭の中が回り始め、
いろんな記憶が入れ替わり立ち替わり。

いつしか俺は、まだ若かった時代、
『酒場』や『冒険者』という言葉がなかった、
遠い昔を思い出そうとしていた。

その頃は、
『冒険者』のことを『フリーター』といい、
『勇者』のことを『勝ち組』とかいい、
『酒場』のことを『ハローワーク』と言ってたっけ。

そんな言葉が一瞬脳裏をかすめたが、
俺は眠くなってカウンターに突っ伏してしまう。



スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました