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恵比寿様の釣果 [フィクション]

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男は公園のベンチに座り、頭を抱え、うつむいていた。

会社で左遷され、自棄酒を飲み過ぎ、借金を抱え、身体も壊し、
会社にもいけない。当然、結婚など、夢のまた夢。

放課後の子どもたちの歓声も、その母親たちの白い目も、
もはや眼中に無い。

(どうしたらいいんだ・・・)

男は俯いて頭を抱えたまま、深い深い溜息を一つついた。

そんな様子を、天界から興味深そうにお釈迦様が見ていた。

(はて、どこかで見たことがあるはずだが・・・)

閻魔帳を開くと、果たして、男は千年ほど前の前世、網にかかった
鮒の子どもを一尾、逃がしてやったことがあるようだ。

慈悲深き惻隠の情が動き、お釈迦様は恵比寿様を呼んだ。

「お釈迦様、何かご用ですか?」

「ええ、下界のあの男をみてください」

「おやおや、不景気そうな様子ですね」

「そうなんです。でも、彼奴は以前かくかくしかじかで・・・、
 救ってやろうと思います」

「それはお情け深い。で、私はどうすれば?」

「ええ、とりあえず、彼奴と話をしてみたいので、あなたの
 釣竿で、彼奴をひょいと釣り上げてもらえませんか?」

「お安いご用です!」

男の目の前に、細い糸と釣針が、するすると下がってきた。
糸の元は、雲ひとつ無い青空に消えている。

釣針が目の前に来たところで、天から大きな声が聞こえてきた。

『おーい、男よ~い!わしは恵比寿だ~』

男は驚いて周りを見回したが、誰も反応はない。

『お釈迦様のお情けだ~。天界に招いてやるぞーい!』

男はまた周りを見回すも、誰も反応はない。

『おい、男、お前じゃお前。その糸の先の釣針に、身体を引っ掛けろ~』

男は頭を振り、糸を引っ張ったり、両手でちぎろうとした。
糸は細かったが、しかし千切れない。

(こいつは丈夫な糸だな・・・それなら・・・ちょうどいい)

天からは、男にしか聞こえないらしい声がまた、

『おーい、早くせんか~!お釈迦様がお待ちだ~』

しばらくすると、天界の恵比寿様の竿に、手応えが来た。

糸を手繰ると、青空の中から少しずつ、男と思しき黒い影が
姿を現す。だんだんと形が鮮明になる。

しかし、

「ありゃりゃ、こりゃ駄目だ!」

恵比寿様は糸の先にぶら下がったものを見て言った。

「身体を引っ掛けろというたに、自分で首に糸を巻きつけとる。
 これでは天界じゃなくて地獄に行ってしまうで。なあ、お釈迦様。
 せっかく助けようとしたのに・・・」

「よいのです。恵比寿よ・・・」

お釈迦様は、悲しそうなお顔で、首を左右にお振りになった。



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