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新橋、中華居酒屋、全ては幻のように [食べ物系]

先日、友人知人数人と、新橋で酒食を楽しんだ。その舞台の一つとなった中華居酒屋が存外に愉快だったので、忘れないうちに記録しておきたいと思う。

特に店を決めずに待ち合わせ、合流し、新橋界隈をぶらついているうちに、ふと飲食店やテナントが入っているとあるビルが目に入った。ビルの中を少し散策すると、どこかで飲もうという話になり、とりあえず地下の飲食店街に向け、階段を降りていく。

階段を降りた刹那、

「いらっしゃいませ!」

と、いささか外国、というか中国系アクセントで、女性の元気な声。中華系の居酒屋の前、それなりに見目麗しい女性が一人、我々を誘っているではないか。

「当店は餃子名物ですよ!」
「飲み放題一時間〇〇円!」
「うちは安いよ、お得だよ!隣の店はぼったくりだよ!!」

などと綺麗な顔に弾けるような笑顔で口上をまくしたてる。その権幕にやや気圧されながら、他の店も見てみたいからとその場を辞し、地下街を見て回る。ただ、我々の心を引き付けるところは無く、地下街を一周しかけたところで、誰からともなく、「さっきのお姉さんの店でよくない?」ということで、その店へ。

地下街に何か所か貼ってあった、「客引きは違法です」との張り紙は、この際見なかったことにする。

「おかえり!」

中華系美女の歓迎の声とともに、我々はその店に飲み込まれる。各自料理の写真の載ったメニューを見る。一応、店内は中華料理の雰囲気ではあり、お姉さん含め店員も中華系のようだが、中華料理というより、揚げ物や焼きそばなど普通の居酒屋メニューの方が多そうで、かつ、しめ鯖などの海鮮ものもある。ドリンクとともに、料理をいくつか注文した。

十数分後、僕らは出てきた品々にある意味での驚嘆を隠せなくなる。頼んだのは以下の通り。

・よだれ鶏
・和風サラダ
・水餃子
・あさり酒蒸し
・レバニラ炒め

よだれ鶏を食べだして、誰かが、「この鶏肉、味が無くない??」と言い出した辺りから気が付くべきだったが、タレをまぶせばほどほど普通に感じたし、味覚が鋭敏ではない僕はその発言をスルー。

和風サラダは、切り身では無いものの、細かく刻まれたしめ鯖とサーモン刺身がドレッシングまみれのレタスに見え隠れ。しめ鯖とサーモンがやや古いかなあと感じないでも無かったが、食えなくもない。ただ、右隣に座る連れがサーモンを口にするなり、非常にささやかながらも、「うっ!!」と飲食店にあるまじき嘔吐きを見せたのは見逃せなかった。

水餃子は、ほんのり白濁したスープにひたって登場。スープを一口啜った僕から思わず声が漏れ、「これ、白湯じゃん、、、」。そう。餃子を茹でたお湯にそのまま入れてきたとしか思えない代物だ。まあ、餃子そのものは普通だったが、連れの一人が「これ、業務スーパーで見たことあるな」と呟き、スマホで検索して皆に見せる。確証はないが、水餃子の形状は業務スーパーのものと似ていなくもない。

白眉が、あさりの酒蒸しである。

あさりを汁に浸して食らうと、なんというか、得も言われぬ風味。少なくとも、酒蒸しの香りではない。全員首をかしげる。少しして、誰かが、「なんか、乳製品っぽい臭いがする」と言い出した。確かに。あえて言えば、クリームシチューの素か何かをお湯で溶いて物凄く薄めたような風味が、かすかに漂っている。あさり本体にはあさりの味がしないでもないものの、どうも頼りない。何を食べさせられているのだろうか。

レバニラ炒めは、レバーがやや少ないことを除いては、先の品々に比べて印象が薄く、なんなら一番まともな感じであった。

かように、我々一団は一皿来るごとにその出来栄えを讃嘆していたのであるが、周囲の席を埋める他の客たちの声からは、料理に関する話が聞こえてこない。我々の席だけがその話題で盛り上がっている。自分たちがおかしいのではないかと錯覚してしまう。

なんだか、魔境に迷い込んだような気持になった。

一通り飲み食いを終え、会計を済ます。勘定自体は別に高くなく、むしろ安いといっていい金額だった。美味いかどうかではなく、楽しめたという意味では、十分以上に元は取れたと思う。とはいえ、どうも釈然としない。ただ、

「ありがとうございました!」

我々を魔境に引きずり込んだ中華美女の小気味よい挨拶と笑顔からは、もう一度くらい、この店に行ってみた方がいいのではないか、誰か別の人を連れて行ったら楽しめるのではないか、そんな誘惑にかられてしまう。今時珍しい、幻のような飲食店体験だった。


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吉野家、秋、月見牛とじ丼 [食べ物系]

吉野家の秋メニュー、月見牛とじ丼がよい。白飯の上に牛肉の玉子とじを載せ、さらにもう一個、生卵が別についてくる代物。週一回くらいのペースで食っている。

空腹を抱え店に入り、注文してほどなくやってくる、湯気立つ丼。

吉野家の定番牛丼の肉がやや半熟の玉子にくるまれた玉子とじ、いざ口に入れると、玉子がふうわりと香ってとろけ、噛むと、牛肉の風味と脂がほどよい。玉子と牛肉と汁の入り混じった白飯は、玉子の滑らかさもあってか、喉越しが素晴らしい。

だが、玉子とじで白飯を食べきるのをどうにか我慢する。もう一つ、生卵があるからだ。

上にのった玉子とじをあらかた食い終え、白飯が半分強ほど残った段階で、満を持して生卵を加える。汁を吸った白飯の玉子かけご飯は、こらまた堪えられない。アクセントに、ちょいと紅しょうがを入れても佳である。

ちょっと欲を言うなら、玉ねぎやネギだけでなく、ゴボウも入れると、さらに味の立体感が増すのではないかと思ってしまうが、コストなどの兼ね合いもあり、そこはご愛敬なのだろう。

秋の月見系の商品というと、マクドナルドの月見バーガーがすっかり定着したが、吉野家の月見牛とじ丼も、なかなかに風情のある一品なのではないかと思うのである。

今後の健闘を祈りたい。

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魚の臓物 [食べ物系]

今年も秋刀魚は不漁らしい。

獲れないだけでなく、SNSとかニュースで写真を見るに、獲れた秋刀魚自体も、大そうやせ細っていてもはや痛々しい。サヨリかと見まごうほどだ。悲しみのあまり、かつて食ったまるまるした秋刀魚の塩焼きに思いを馳せる。身は言わずもがな、大根おろしをまぶしながら食う、はらわたの苦味とコクも良い。

そういえば、魚の臓物も、割と美味いものだ。

秋刀魚のはらわたもだが、同じように、鰯の丸干しのはらわたも、苦み走っていて素敵だ。同じ塩焼きのはらわたなら、鮎の素晴らしさときたら無い。秋刀魚や鰯のがワイルドな苦味とするならば、鮎は苔が主食のせいか、同じ苦味でも上品で清冽だ。塩焼きのはらわただけでなく、鮎の臓物を塩辛にしたうるかは、絶品である。焼いたものでは、鰻の肝焼きの香ばしさもまた捨て難い。

臓物なら、鰹の臓物の塩辛、酒盗は外せない。ちみちみとつまみながら日本酒でいくと、3~4合は飲めてしまう。クリームチーズと合わせるのも佳品だ。鮪の臓物で作った酒盗もありがたく、鰹のものと甲乙つけ難い。塩辛と言えば、やはりスルメイカが王道だろう。肝のしっかりしたコク、身の風味、香り。酒でも白飯でもいける万能選手である。魚ではないが、鮑の肝にも、得も言われぬコクと旨味がある。

肝のコクで言うなら、カワハギの肝醤油は至高かもしれない。カワハギの身のたおやかさと肝醤油のコクと力強さを合わせた無双感たるやである。

臓物系というと苦味やコクもあるが、歯ごたえが印象的なのもある。クエやアラの胃袋の湯引きなどは、魚の風味を残しつつ、コリコリとしていて楽しい。変わり種では、マンボウの腸の湯引きも、やはり風味と歯ごたえのバランスに妙がある。やはり魚ではないが、鯨、その小腸を塩ゆでした百ひろも、噛めば噛むほど滋味がある逸品だ。

以前、新宿の思い出横丁のトロ函で食べた鮪のもつ煮込みも美味かった。いわゆるもつ煮込みの味付けで鮪の臓物を煮てある代物。ふるふるした舌触り、歯ざわりや脂っぽさはいつものもつ煮なのだが、魚の脂だからかどこかあっさりしていて、どことなく品が良い。

魚の臓物は捨てられがちだが、獣肉の臓物がそうであるように、その種類や料理法によっては、かなりの美味になることもある。もしかしたら、人間だってそうかもしれない。今世の中や周囲から評価されていない人だって、例えばその魅力を理解する人がいて、巧いこと料理してやれば、極上の美味として力を発揮することもあるんではないか。

食の楽しさ、もっと大げさに言えば、人生の楽しさをちょい足しするためにも、魚の臓物の美味さも、無視しないようにしたいものである。

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横浜、崎陽軒、きのこそば [食べ物系]

2年程前だろうか、ある日の夕暮れどき、所要で横浜駅に降りたのである。

1~2時間で用事を済ませ、さて、腹が減った。横浜と言えば中華街だが、横浜駅から中華街まで、大したことないとはいえ、ちょっと距離がある。徒歩圏内ではない。とはいえ脳内が中華に染まりつつある。そんなとき、ふと思い出した。

崎陽軒の本店があるじゃん。

崎陽軒と言えば、やはりシウマイだ。東京駅から新幹線に乗るとき、崎陽軒のシウマイは最高のごちそうの一つであると個人的には思っている。シウマイ弁当ではなく、シウマイオンリーの方。一個一個が小さく食べやすく、貝柱の風味のせいか、冷たいままでもみっちり美味い。

もちろん、シウマイやシウマイ弁当を売ってるだけでなく、崎陽軒には中華料理を食べさせる店舗があるのは知っていたが、そう言えば行ったことが無い。これはチャンスだな。というわけで、崎陽軒本店の建物に向かった。

崎陽軒本店ビルについたが、さて、「崎陽軒」という名の店は無く、いささか戸惑う。でもまあ中華料理が食いたいのであり、中華料理屋と思しき二階の店舗、『嘉宮』に入る。普段使いの街中華には無い、重厚な雰囲気。高級中華。もちろん一人だが、気後れする年でもない。ずんずん入る。

お冷でのどを潤した後は、紹興酒のグラス。刺身に日本酒が欲しくなるように、中華料理にはとりあえず紹興酒を合わせたくなる。ひとしきりメニューを見せてもらう。やはり、シウマイは欠かせない。一人なので、もう一品くらいか。季節メニューを見るに、「季節のきのこのそば」とある。よし、そいつにしよう。

紹興酒をちびりびちりとすすりながら待つと、まずシウマイがやってきた。小ぶりの蒸籠が湯気でほんわかしている。中には、シウマイが4つ。駅で買うやつより、一つ一つが明らかに大きい。醤油と練り芥子でいただく。

ほふぅ。

薄くしなやかな皮の向こうから、肉やらなにやらの餡の味や香りがストレートに立ち上ってくる。これまで冷たいシウマイの小さくみっちりしたイメージだったのが、もっとほんわりして、それでいて風味が強く感じる。一つ一つの大きさも、結構、食べ応えがある。なるほど、これはよい。

そうこうしているうちに、きのこのそばがやってきた。

汁そばではあるが、汁はやや少なめ。表面をとりどりのきのこが覆っているものの、茶色や白が基調で、見た目はおとなしめである。で、麺ときのこをすする。なるほど。様々なきのこの歯ざわりと香り、そして細めの麺、これらを、決して派手さは無いものの、地に足のついた鶏ベースの旨味の汁が支えている。なんというか、地味だけど滋味、そんな味なんである。

シウマイ、紹興酒、きのこそばのサイクルを何度か回しているうちに、蒸籠とどんぶりとグラスは空に。紹興酒をもう一杯頼もうか悩んだが、帰路があるのでお代わりはやめにする。ちょうどよい満足感。

惜しむらくは値段が街中華では無いことであるが、それでも僕がたまに飲み食いできる金額で、きちんとした中華料理を食べさせてくれるのは素晴らしい。駅売りのシウマイだけではない、崎陽軒のちょっとした本気を垣間見た、そんなひとときなんであった。

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ウイスキーは、お好きでしょ?スコッチ協奏曲 [食べ物系]

日本酒の次に好きな酒は、ウイスキーかもしれない。アイリッシュ、バーボン、ジャパニーズ、カナディアンとあれど、やはりスコッチである。

ずっと昔、意識して飲み始めた若いころは、単に背伸びをしたかっただけに違いない。薫り高い、強めのアルコールを喉に流し込むことに、味わいよりも、ある種のカッコよさを感じていたであろうことは否めない。そんな記憶も、もはやおぼろげだ。

そのころまでに、アイラモルトのスコッチ、ボウモアとラフロイグは、なぜか飲んだことがあった。飲みつけない身にとって、むせるようなピート臭は違和感でしかなかったが、こんなもんかと思ってストレートで呷ったことがあった。

それからしばらくして、あるとき、ゴールデン街の某『虎の穴』で飲んでいて、店主の鴻野さんとスコッチの話になる。やはり、シングルモルトがよい。そこから、自分の中でのスコッチの強化期間がはじまった。とはいえ、スコットランドには110以上の蒸留書がひしめき合っている。全部試すのは難しい。

そうだ、アイラだ。

スコットランドでもアイラ地区に限れば、数は減る。その当時、日本の酒場で飲むことができたシングルモルトは7種類。ピートの個性もあるし、わかりやすい。とりあえずアイラのウイスキーをきっちりと覚えようではないか。それからは、酒の場所に行くたびに、アイラモルトのウイスキーを飲むことにした。

薫りがじんわりと身体の底に降りてくるような、アードベック。全方位に放出されるような、ラフロイグの力強さ。咽喉を通るときに確かな華やかさを持つ、カリラ。重厚な風味が否応にでも大人の感じを醸し出すラガヴーリン。ほのかに塩気ある海風を想わせるブナハーバン。アイラの香りを押し出しつつ遺漏が無いバランスの取れたボウモア。

全て好きだが、個人的に気に入ったのは、ブルイックラディである。アイラの中では比較的軽めの風味で、アイラっぽさを残しながらも、むしろ爽快感が心地よい。スカイブルーのラベルもイカシてる。好ましい。

ひとしきりアイラの強化期間にめどがついたころ、『虎の穴』が、スコッチを飲み放題にしてくれるイベント営業をすることとなった。あるクリスマスイヴのことである。アイラを中心に、鴻野さんが何種類かシングルモルトを用意してくれて、中でも、アイラではないもののグレンリベットの21年が目玉だ。

その夜は、絶望的にシングルモルトを飲んだ。

幸か不幸か、せっかくのイベント営業なのにそれほど盛況とはならず、客は常時数人程度の見知った人々。まあ、クリスマスイヴだしな。スコッチの質と量を文字通り堪能し、もちろん、皆程よく泥酔。最後は、誰も彼もがラフロイグにカリラを注ぐなり、グレンリベットにボウモアを注ぐなりなんなりのブレンドをはじめ、「俺のブレンドを飲め!」と怒鳴り飲ませ合う始末。

「これじゃ、赤字だよ」との、鴻野さんの苦笑が妙に記憶に残っている。

そうこうするうちにつきものが落ち、スコッチ以外もまた飲むようになったし、アイラ以外のシングルモルトも飲むようになった。

グレンリベットの12年は水割りでもソーダ割でも、何ならお湯割りでも美味い万能選手だし、タリスカー10年のパンチの効いた風味はある意味アイラモルト以上だ。万事マイルドな宮城峡を飲めば、子供のころ連れていかれた蒸留所の楽しくもなんともなかった思い出がほっこりとよみがえる。

時間とお金があれば、スコットランドを旅行し、スコッチをだらだらと飲む旅をしてみたい。でも、たぶん、かなわぬ夢。グラスに揺れる琥珀色の液体に、旅情を溶かし、思い出を溶かし、ぐっと飲み干して終わるであろう人生なんである。

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