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ある夢の中の館の話 [その他]

夕暮れ時、近所を散歩していると、ふと、旅館風、あるいは料亭風の、
割と大きな館があるのを見かけた。

この辺に住んでずいぶん経つのに、こんな建物をみかけたのは初めてだ。
玄関近く、小さな看板に、「2000円で食事ができます」みたいに書いてある。
そういえば小腹も空いた。幸いなことに、財布には少々お金も入っている。

好奇心に任せて、その館に入ることに。

引き戸を開けると、旅館の帳場のような景色に、「いらっしゃいませ」と男女の声。

「2000円で食事ができるって書いてあったんで」

「そうですか、ではこちらへ」

靴を預け、名前を書かされ、手慣れた中年男性に食堂みたいなところに通された。
同じように案内されたであろう男どもが数人。

しばらくすると、厚揚げとがんもどきを煮たのが白い皿に乗って出てきた。
おでんというにはあまりに寂しい感じだが、仕方ない。

厚揚げとがんもどきにちょいちょい箸をつけていると、定期的に人の名前が
呼ばれているのに気づく。呼ばれた男は食堂の席を立ち、和服の女性に促されて、
いそいそと、隅の狭い階段で二階へ上っていく。

ほどなく、自分の名が呼ばれた

同じように二階に上がっていくと、そこはいくつかの小さな部屋で区切られていた。
それぞれの部屋の上の辺りに、「〇〇の間」みたいな名のついた札がかかっている。
そのうちの一つに通された。

「あら、ありがとー!」

部屋からは主と思しき女性の声。中に入ると、和室、4畳半くらいだろうか。
小さな鏡台とやはり小さなちゃぶ台のほか、家具のほとんどないその部屋の隅、
脇息に寄りかかって座布団に座り、タバコを吹かしている女性がいる。

彼女から座布団を勧められそそくさと座った。
女性は薄いベージュ色のシュミーズ一枚で、僕と同世代か、いくらか年上と思われる。

「こういうところ、初めて?」

「ええ、まあ、、」

二言三言言葉を交わしつつ、キョロキョロ室内を見回す。
窓の外には川が見え、夕日が川面にさして輝いている。

「ビール、飲もうか」

「はい」

どこからともなく瓶ビールが出てきて、ガラスのコップに注ぎ、二人で軽く乾杯する。
やはりどこからともなく、何か野菜を煮たような一皿が出て、二人でそれを摘まむ。
何でもないような四方山話を、二人でつらつらと問わず語りに。

女性は、それなりに整っていて綺麗と言ってもよいが、犬歯の辺り、一本、
歯が欠けて居たり、髪の生え際に染めそびれた白さがやや残っていたりと、
それなりの 年輪を感じさせる。

まあ、鬢がめっきり白く腹のたるんだ自分も大差はない。

ビールが無くなったころ、

「あら、もう時間だわ。今日は、もういいわね。またね」

彼女にそう促される。どうやら帰る時間らしい。

廊下に出ると、「〇〇の間、十二万円!」という声がどこからともなく聞こえ、
一瞬背筋が凍った。まさか、まさかね。

一階の帳場で会計を済ませようとすると、「4300円です」と言われた。
2000円じゃなかったのかと軽く抗議すると、「それは〇〇料抜きで、、、」と
わけのわからぬ言い訳をされたが、まあ十二万円ではないので素直に払う。

外はすっかり暗くなっていて、虫の声を聞きながら帰路につくことにした。

そんな夢の話。


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