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不同意性交罪、刑事司法への過剰期待の懸念 [警察・刑事手続]

性犯罪の無罪や不起訴がニュースになるたびに話題になるのが、いわゆる「不同意性交罪」を伴う刑法改正である。最近では、参議院議員選挙を前に共産党が不同意性交罪の新設と考えられる内容を公約に掲げたことで話題になった。

具体的な条文構成案が誰かから示されているわけではないので詳細は分からないが、要は、「当事者の同意が証明できない性交を処罰対象としよう」とする趣旨だと思われる。

まあ、一般的にありうる類型なのが、男性による暴行・脅迫を伴わず、女性が本心では好まなかった性交をした場合に、男性が処罰対象となる、といった形だろうか。

確かに、現行の強制性交罪の条文では「暴行・脅迫」要件があり、しかも捜査および裁判実務上この「暴行・脅迫」として求められる要件が高いとされ、特に、女性被害者が被害を訴えても、暴行・脅迫があったとは言えない、もしくは暴行・脅迫の程度が低いとして、証拠不十分の不起訴ないしは無罪とされるケースが問題視されてきた。

ちなみに、「暴行・脅迫」が無くても性交が犯罪になるものとして、現行刑法上以下のものがある。
・同意の有無にかかわらず、13歳未満との性交
・心神喪失ないしは抗拒不能に乗じ、ないしは心神喪失ないしは抗拒不能にさせた上での性交
・同意の有無にかかわらず、監護者が自ら監護する18歳未満の者に対し影響力に乗じて行った性交

ともあれ同意の無い性交は、男女双方にとっても苦痛なものである。では、同意の無い性交はそれだけをもって、刑事罰の対象とし、上記の現行法を超えて、不同意性交罪を新設すべきだろうか。

個人的には、不同意性交を刑事罰の対象としたい要請は理解しつつも、不同意性交罪の新設は筋が良くないと思う。最大の理由は、暴行・脅迫や、性交が犯罪となる上記の例と比べ、同意の有無とその故意という内心の立証が刑事司法の実務上難しいからだ。

例えば、住居侵入罪でも同意の無い住居等への侵入は刑事罰の対象だが、この場合、条文上は同意の有無とは異なり、「正当な理由」となっている。だから、人の住居に入る職務権限などを客観的に証明できるし、そのような権限があったことを誤信する環境も証明しやすい。

また、同意の存在について被告人に立証責任を負わせることは、有罪認定の主張・立証責任をすべて検察が負うとする刑事司法の無罪推定の原則から言って、認められない。なおこの点、刑法230条の2など、現行法でも若干の例外がある。ただそれらは名誉棄損罪など行為そのものが違法である場合の例外であり、性交そのものが原則違法であるという認識および条文構成をとらない限り不可能だと思うし、性交そのものを原則違法化するのは、いささか無茶な理屈ではないかと思う。

もちろん、刑事司法の実務上困難なのはさておき、象徴的にでも不同意性交罪を作り処罰対象を広げるべきという意見については、理解できないでもない。ただ、不同意性交罪の証拠を集めるために捜査で違法な取調べが行われて証言の信ぴょう性が争われたり、検察が公判で立証できずに無罪判決が増えたりすると、不同意性交罪での捜査・起訴が躊躇われて条文が死文化しかねず、逆効果ではないかと懸念する。

このように、不同意性交罪の新設については、個人的には不同意である。それでも、不同意性交罪の新設の声が根強いのは、課題解決の方法としての刑事司法にかける期待が過剰なのがその原因ではないかと思う。

確かに、刑事罰は、存在そのものの一般予防的な効果も大きいし、インパクトもある。しかし、刑事司法だけで性犯罪の被害を減らし、和らげ、できれば無くすことは不可能だと思う。

刑事手続きには、無罪推定の原則をはじめ、被疑者・被告人の権利を守るための様々なルールが存在しており、その遵守が求められる。もちろん、被害者の意向や存在を無視してはならないが、被害者の意向だけが通る手続きでは決してない。被害者がどんなに処罰意志が強くても、刑事裁判で検察官が犯行を証明できなければ、被告人を有罪にすることはできないし、それは決して不当なことではない。

性犯罪被害に対し、刑事手続きには限界があるのである。

誰しも、性犯罪の被害が無くなること、そして、仮に被害が発生したとしても、被害回復が速やかに行われ、被害を受けた方の気持ちが少しでも楽になることを願っているはずである。もし、そのような性犯罪被害の撲滅と被害者の保護が目的なら、限界のある刑事手続きに全てを期待することは誤りだと思う。

性犯罪の厳罰化や実務における認定などの刑事司法をこれからも不断に見直すことは、当然必要だろう。ただそれ以外にもやるべきことはたくさんあるのではないか。例えば、
・被害者を泣き寝入りさせない24時間の相談体制の整備
・民事手続きでのより容易な被害補償制度の整備
・被害者の医療費負担の軽減
・性犯罪への一般的な教育・啓蒙
・再犯を繰り返す人々への医療措置の普及
・女性専用車両や監視カメラなど、犯罪をしにくい環境づくり
等々、考えるべきこと、やるべきこと、つけるべき予算はたくさんあるはずだ。刑法改正という一論点だけではない総合的な性犯罪被害対策こそが、求められていると思うのである。


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臓物を食らう、亀戸 [食べ物系]

ゴールデンウィークごろ、スカイツリーを背景に見る亀戸天神の藤の花もよいし、着席と同時に一皿登場しビールと交互に食い流し込む亀戸餃子もよい。たまには少し贅沢に、升本のあさり鍋の定食もなかなかに滋味深いものである。駅の反対側にも、よさげな飲み屋が手招きをしてくるかのよう。

そんな亀戸、しかし、個人的な推しはホルモン屋だ。

何件かあるホルモン屋のうち、好きなのは、『ホルモン青木』と『亀戸ホルモン』の2件。まあ、どちらも有名店だし、今更であるが、好きなのはしょうがない。いずれの店でも、ホルモン、すなわち獣の臓物の類を、ひたすらに七輪で焼いて食らうのである。

先日、数か月ぶりに知人から会おうかと誘いがあった。ならばしばらくご無沙汰していたことを思い出し、せっかくだから亀戸でホルモンでも食おうという段取りに。青木か亀戸ホルモンか、どちらも美味い記憶しかないので、入れそうであればどちらでも構わない。その日は、青木の方が若干行列が長かったので、亀戸ホルモンの行列に並ぶことにする。

そう、結構並ぶのである。亀戸ホルモンは事前予約を受け付けてない代わりに、遅すぎない時間で並べば、いつかは必ず入れる。並ぶのはあまり好きではないのだが、まあ、ディズニーにでも来たつもりで我慢する。知人とだらだらと四方山話をしながら、心中、ホルモンへの期待値を高めていく。

待つこと小一時間。

カウンターの席に通され、目の前の七輪に火が点る。まずはビールとホッピーセットで乾杯。混んでいるので食べ物の追加オーダーが難しいとのこと、幸い我々食が細い方ではないので、いろいろ頼む。ハツ、レバー、マルチヨウ、トロミノ、ホルモン、ミックスホルモン、煮込み、もやしナムル、キャベツ。

まずは高速で出てきたナムルとキャベツと煮込み。煮込みが存外に美味い。お互い2杯目を注文したあたりで、ようやくホルモン陣が運ばれてくる。赤黒い一口大の肉の欠片たち。待ってました。

あとは、ひたすら七輪で肉を焼いて口に放り込むのみ。

ハツは分厚くて食べ応えがあるのにサクサクしていて臭みも無く、レバーは高いレベルで芳醇な甘みとコクを放出し、マルチヨウの滴る脂が炭に当たって弾ける音と香りは例えようも無いほどで、トロミノはその名のとおり柔らかく旨味たっぷりで、何が入ってるかよくわからんミックスホルモンの味噌だれが軽く焦げた味は蠱惑的だ。

焼いた臓物を噛んで飲み込み、脂でギロギロとした唇や食道をビールやホッピーやサワーで洗うのは、ある意味獣としての官能的な快楽である。よい。

ふと周りを見れば、諸人臓物を焼き酒を飲み、語り、臓物を焼く煙は店内に立ち込め、店員はただただせわしなく臓物と飲み物を運び皿を下げていく。

そんな中、ふと思い出したのが、何年も前に読んだ『日本三文オペラ』(開高健)、屑鉄をたたき売って暮らすアパッチ族どもが牛の臓物を七輪で焼いて食らっているシーン。そして、牛鍋屋の喧騒を詠った詩、『米久の晩餐』(高村高太郎)。詩の言葉をいささか拝借するならば、「六月の夜は今亀戸にじゅうじゅうと焦げ立つ」のである。

脂と煙の陶酔の中に、酒が進み、会話が弾み、亀戸の夜は更けていく。

≪ホルモン青木≫
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131202/13059962/

≪亀戸ホルモン≫
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131202/13008099/
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