SSブログ

満州寸考 [読書]

スポンサーリンク




『甘粕正彦 乱心の曠野』(佐野眞一 新潮文庫)読了。

内務省と陸軍との勢力争いの狭間で、大杉栄虐殺の汚名を刻まれた
元憲兵大尉は、軍から、ひいては国家から保護と使命とを与えられ、
満州で暗躍する。

甘粕の蠱惑的な汚名と卓越した実務能力、そして、破裂間近な風船のような
その張り詰めた人格は、満州で、多くの人間を引き付けた。

甘粕は、岸信介や東条英機など、いわゆる大物とのパイプを維持しつつ、
その周辺にどこか無頼な人間を置いて、縦横に活躍させる。

それにしても、満州。

人口増加、不況、戦争、統制経済にあえぐ本土をよそに、
満州という言葉の響きは、なんと広大で甘美なことか。

五族協和の実態は差別と官僚主義に彩られたキメラだとしても、
それは、大きな可能性を感じさせる大地だった。

満州の維持は華北進出、そして中国への特殊権益主張につながり、
中国への機会均等、門戸開放が国是の米国と対立。日米戦争に発展。
敗戦とともに、満州国は、ソ連戦車の轍に消えた。

満洲映画協会理事長の甘粕は、青酸カリで大日本帝国に殉じる。

ところで、満州への希望と挫折は、日本人に何を残したのだろうか?

閉塞感ただよう令和の日本、新たな「満州」が必要なのかもしれない。

しかし、満州がもたらした昭和日本の高揚と、その挫折が生んだ
様々な悲喜劇を想うと、「満州」を求める声がどこかか細くなってしまう。

これが、衰退なのだろうか・・・


スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。