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友情に似た何か~日高敏隆と岸田秀~ [読書]

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『動物と人間の世界認識』(日高敏隆 著)がやたら面白かった。

ユクスキュルの「環世界」を紹介しながら、動物が付与する意味によって、その認識する環境が異なるという事実を論じる。

例えば、同じチョウでも、アゲハチョウとモンシロチョウでは、認識する世界が違う。

アゲハチョウはミカン科に産卵することから、その種の木が多い可能性の高い、日当たりの良い高い梢を飛び、交尾相手を探す。モンシロチョウは、アブラナ科の植物が多く存在するだろう、平たい草原を飛ぶ。

アゲハチョウには平たい草原は存在しないし、モンシロチョウにとっては、高い梢は存在しないのだ。

草原も、梢も、確かに存在するのにかかわらず。

日高氏は、このような世界認識を「イリュージョン」と呼び、動物は「イリュージョン」がなければ世界を認識できないと喝破する。むろん、動物には、人間も含まれる。

つまり、完全に客観的な世界認識など、どこにも存在しないのだ。

日高氏がこの着想を得たのは、たぶん、40年ほど前。そしておそらくキーパーソンは、心理学者、岸田秀。

「人間は本能の壊れた動物である。だから、大脳が作った幻想に従って生きざるを得ない。ゆえに、人間の世界は全て幻想だ」

ざっくりこんな感じの『唯幻論』を、岸田氏は唱える。

二人は、本書の約40年前、別々に留学したフランスで親交を結んだ。そこで日高氏は唯幻論の基となる思想を聞いたらしい。

そして、岸田氏の著書『続ものぐさ精神分析』の解説において動物と人間の相対性について触れ、人間と動物を本能で峻別する岸田唯幻論に対し、批判の足掛かりを築いている。

それが本格的に展開されたのが、本書なのだろう。いわば、日高氏から岸田氏への、アンサーソングなのだ。

着想から体系化まで、約40年。友情に似た知的な交流を、少しうらやましく感じた次第である。



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