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【読書】大人にこそ、物語は必要だ(『機忍兵零牙』) [読書]

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『機忍兵零牙(新装版)』(月村了衛)読了。

『零牙』自体は9年前に読んでおり、今回は再読。いやはや、「学びて時に之を習う亦説ばしからずや」という論語の言葉を改めて噛み締める。要は楽しかったのだ。

数多の次元を支配する「無限王朝」に滅ぼされた亡国の幼き姫と王子、そして彼らを狙う無限王朝の走狗としての忍び「骸魔衆」。主人公零牙をはじめ「光牙衆」は無限王朝と戦う忍びの勢力として、亡国の王の願いを聞き届け、姫と王子を守って安全地帯に送り届ける使命を帯び、骸魔の精鋭六機忍と戦うことになる。

「無限王朝」「忍び」「光牙」「骸魔」「六機忍」等々、目で見ただけでも心くすぐる文字列が乱舞する。

光牙と骸魔がそれぞれ生命をかけ、知恵を振り絞り、各自の機忍法で戦う様はまさに手に汗握る。加えて、それぞれ類まれな戦闘力に恵まれながら、ここではない、そして存在すら定かではない<本当の世界>への郷愁に焦がれる光牙の「忍び」たちの言動は、ともすれば戦闘が続く殺伐とした物語に、言いようの無い複雑な陰影を添えてくれる。

光牙者たちが憧れるという<本当の世界>がもし僕らの生きる浮世だとするならば、僕らにとっての<本当の世界>はむしろフィクションの闇の世界なのかもしれないのである。

ともあれ、10代のころ耽読したマイケル・ムアコックの『エターナルチャンピオン』シリーズもかくやという異世界の冒険譚を、絢爛にして流麗、そして耽美な日本語で読めるのは、率直に言って、喜びとしか言いようがない。

良質の物語は、登場人物への試練や艱難辛苦を通じ、人間の生、つまり善も悪も愛も憎悪も優しさも厳しさも悲しさも喜びも、しっかりと思い知らせてくれる。日常生活に埋没し、常なるものを見失った大人にとって、物語を読むことは、人間としての全体性を蘇らせる一つのきっかけになるのではないかと個人的には思っている。

そう。大人にこそ、この世界ではないファンタジー、そして物語が必要なのだ。

『機忍兵零牙』は、周到に編まれた文体による痛快にして痛烈な冒険譚であり、僕らの世界認識に一石を投じる良質のファンタジーであり、そして大人のための物語であると、僕は確信しているのである。

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