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【フィクション】日陰者の冬 [フィクション]

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いよいよ俺も年貢の納め時か・・・

自分の身体が手際よく天井から吊されていくのを、
全く他人事のように感じながら、
俺は、つらつらと、いろんなことを考えていた。

思えば、生まれてからずっと、
日の当たらないところで暮らしてきた。
それが、当たり前だと思っていた。

日陰で生きていくには、
多少は知恵が回らなきゃだめだった。
だます方よりだまされた方が、
なんて言うが、ありゃウソだ。
俺は、何度となく他人をだまし、
食い物にしてきた。

だます方法なんて、簡単だ。
ピカピカのエサをぶら下げてみせりゃ、イチコロ。
みんな、一皮剥けば欲の塊だってこと。

あのまま日陰で暮らしてりゃ、
俺も、天寿を全うできたかもしれねえ。
でも、それだけじゃ、空しいじゃないか。

俺は、日の当たる場所に出てみた。
その結果が、これだ。

あっという間に捕まっちまって、
飲まず食わずであちこち連れ回され、
吊し上げられて、そして、これから、
殺されるんだろ、、、

うげっ・・・

いきなり、口から大量の液体を注がれた。
たぶん、水だ。新手の拷問か。
こんなにたくさんの水なんて、飲めやしねえ。
ちくしょう、殺すんなら、いたぶらずに、
さっさと殺せ・・・

ああ、気持ち悪い。
あんなに、水を、飲ませやがって。
ふうう。

お?ようやく獲物を出してきやがったな?
そうだ。早いとこ、その包丁で、ばっさりやってくれ。
俺も、もう、さすがに、あきらめたよ。

俺の皮膚に、刃物の、鋭く、冷たい感触が走っていく・・・


ある小料理屋の店先、初老の男が慣れた風に暖簾をくぐった。

「いらっしゃい!」

「今日は、何があるかな?」

「ちょうどいいときにいらっしゃいました!ちょっと早いですが、
極上のが入ったんで、是非肝の友和えで召し上がってください!」

「今の時期だと、なにかね?」

「へい、アンコウです」



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