SSブログ

人為と自然と疑似自然 [読書]

スポンサーリンク




『デフレ不況をいかに克服するか ケインズ1930年代評論集』読了。

世界恐慌を中心とした大戦間期の欧州の経済状況に、即応すべき経済政策を説く。

政府の財政出動はもちろん、公債発行による公共投資のタイミングや、低利子率に
関する議論、自由貿易と保護貿易の得失、人口減少が経済に与えるインパクトなど、
今日でも取り上げられる論点。

一般向けの講演や評論を集めており、主著の『雇用・利子・貨幣の一般理論』と
比べて、結構読みやすかった。

基調には、個人の利益追求が市場を通じて最適な資源配分を生むという、古典派
経済学への信仰に対する痛切な批判が流れている。例えば、デフレ期における節約
キャンペーンのように、個人の経済活動にとって最適な行為が経済全体を損ねる、
いわゆる合成の誤謬などなど。

ケインズは、市場の機能を認めつつも、理想的な資源配分のためには、政府ないし
中央銀行の介入が必要と主張する。例えば、フランクリン・ルーズベルト大統領の
ニューディール政策に対し、景気の「回復」と経済の「改革」の二つの意義がある
ことを認めつつ、大恐慌直後の経済政策としては前者に注力すべきという提言を
行っている。

このような経済活動への介入は、ハイエクからは「隷従の道」として批判されかね
ないものである。ただ、ケインズの言動を読む限り、彼が社会主義的な統制経済を
志向しているとは考えにくい。

おそらく、ケインズの考え方を意訳すれば、養老孟司などの言う「手入れ」の思想
だと思う。

田んぼを例にとれば、自然そのままにしていれば、雑草は生え放題、害虫は蔓延り
放題で、収穫することは困難だろう。手を加えるのはもちろんだが、天候をはじめ、
最後は、人間の力の及ばない自然にゆだねざるを得ない。

おそらくケインズは、人間が作り出した経済というものを、自然に似たもの、つまり
疑似自然として考えていたのでは無かろうか。これは非常にデリケートな話である。

政治が経済に影響を与えるとすれば、政治は民意の名のもとに、どこまでも、統制
を及ぼそうとするだろう。いきつくところ、社会主義経済に他ならない。一方で、
ラディカルな自由放任主義が好景気不景気の波を呼び、不安定を招くことは自明だ。

「手入れ」は、統制を望む人々からは手ぬるいと指摘され、自由を望む人からは
不合理な規制強化と批判される。どっちつかずになってしまう。

いわゆるケインズ革命以降、政府は経済政策という麻薬を手に入れた。しかし、
経済は政治の思うままに推移するわけではなく、一方で、経済を円滑に回すには、
各種のルールの策定など政治の力は不可欠である。

ケインズの提起した問題は、一時代の経済分析を超えて、「経済」を理解する
方法論や、政策を実現する政治体制論にまで、広がりうるのかもしれない。

などと考えながらお布団の国に逃避したいある冬の夜。



スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。