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某A省の憂鬱 [読書]

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守屋武昌元防衛次官の『「普天間」交渉秘録』は大変興味深い本でした。 防衛庁(省)に4年に渡り事務次官として君臨した守屋氏の日記に基く 手記。主なテーマは2点。 普天間代替施設をめぐる沖縄県や各市との交渉および省庁間調整の話と、防衛庁の省昇格法案をめぐるやりとり。

防衛省法案には役人的な面白さはあるものの、やはり圧巻は普天間です。目立つのは、沖縄のぬえのような老練さと防衛庁の組織としての未熟。沖縄は、県と自治体、さらに地元企業がそれぞれに思惑が食い違っており、 直接の交渉相手である防衛庁を迂回して、政治家や他の関係省庁に、その 思惑に基いた意見を伝えます。 伝えられた方はその伝え聞いた思惑を(ときには意図的に)精査せず、 「地元の意見」として喧伝し、各方面から防衛庁に圧力を加えていきます。

防衛庁は防衛庁で、他省庁と比べて設立の歴史も浅く、特に内政関連の政府会議への参加がほとんどないことから、財務省や自治省(総務省) などと比べてネゴシエーションや調整の経験がどうしても不足していることは否めません。 このあたり、財務省出身で内閣官房副長官補など歴任し、当時会計検査院検査官だった伏屋和彦氏が守屋氏にアドバイスしているくだりがあるのは示唆的です。 さらに、外務省も、安全保障関係の仕事を防衛に奪われることに関して、決して愉快には思っていない節があります。

守屋氏は非常に精力的に動き回っていますが、その手腕をもってしても、沖縄の「地元の意見」に振り回され、後手後手に回ってあっさり孤立 。 こうして、実現可能性を踏まえて米軍と合意した内容はあっさり覆され、
もしくは合意したはずの県や自治体の協力はサボタージュされ、残るのは、米軍の不信感と普天間基地の危険な現状のみ。

あえて得をする人がいたとすれば、防衛省案をつぶして面子の立った 沖縄の関係者と、そこにつながる役人、政治家でしょう。

もちろん、交渉の一当事者である守屋氏の手記だから、全部鵜呑みにすることはできませんが、ケビン・メア氏などがいささか過激な物言いで沖縄を 非難するのも、理由の無いことではなさそうです。

さて沖縄の政治家として、「基地を完全になくす!」という趣旨のことを 言わなければ、政治生命がもたないということもあるのかもしれません。 しかし、その勇ましいスローガンが、結果的に(ないしは意図的に?)、基地の移設や危険性の除去を遠ざけている要素があるのは、おそらく間違いないでしょう。

ただ、沖縄の方含め多くの日本人は、沖縄の米軍が日本のみならず アジアや世界の安定に寄与していることを認識していると思います。 であるならば、米軍や政府や沖縄が合意できないことを連呼しあうだけでなく、まずは普天間の危険性の除去とそのための代替施設という、 誰もがある程度合意できる点を物理的に実施しなければならないはずです。

これまで、「沖縄=反戦=基地反対」という非常に単純な等式で考えていましたが、これからは沖縄県民の方の声とやらも、もう少し分け入って みるべきだと思いました。

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